公務員だから出場料ゼロ。ボストンマラソン優勝の川内優輝はなぜ強いのか。
ボストンマラソン(以下、ボストン)は世界最古のフルマラソンで、ワールド・マラソン・メジャーズ(WMM)のひとつ。テロの標的にもなったことがあるほど、世界中から注目を集めるビッグレースだ。そんなボストンから日本人ランナーの快挙が届いた。“公務員ランナー”川内優輝(31、埼玉県庁) が16日(日本時間17日)日本勢では1987年の瀬古利彦以来、31年ぶりのボストン優勝 を飾ったの だ。 昨年は気温が25度近くまで上昇したボストンだが、今年は当日行われる予定だったメジャーリーグ「レッドソックス―オリオールズ戦」の中止が前日に発表されたほど、冷たい雨が降り注いだ。そのなかで川内は変幻自在のレースを披露する。 ボストンはペースメーカーが不在の大会。まずはスタートダッシュをかまして、テレビ解説者に「クレイジー」と言わせるほどの、飛び出しを見せた。その後はトップ集団のなかでレースを進めて、中間点を1時間5分59秒で通過する。後半は前回覇者のジョフリー・キルイ(ケニア)に引き離されるも、40km地点で20秒差の2位につけた。ここからの川内も“クレイジー”だった。昨年のロンドン世界選手権で金メダルを獲得したキルイを悠々と逆転。後続に2分25秒差をける 圧勝劇を完結させた。 川内はレース後のインタビューで、「ただ前だけを見て、ひたすら前だけを見て自分のベストの走りをしたら勝てました。(強風と大雨は)私にとっては最高のコンディションでした」とコメント。優勝タイムは2時間15分58秒と平凡だったが、そんなことは関係ない。伝統のボストンを制したことは、テニスの四大大会やゴルフの四大メジャー大会に勝つことと匹敵するくらい価値あるタイトルだからだ。 いや、マラソンはアフリカ勢が本格参戦するスポーツであることを考えると、日本人が勝つことの難易度は、もっと上かもしれない。そんな“ミラクル”をフルタイムで勤務する公務員ランナーが達成。世界の「KAWAUCHI」となった川内優輝の「強さ」を探ってみたい。 現在31歳の川内が世界のトップランナーと比べて、ずば抜けているのは、稀有なレース・キャリアだろう。フルマラソンは今回のボストンですでに80回以上となる出場で、そのうち海外レースは世界選手権などを含めて35回目。どんな大会に出場しても、「どこかで戦ったことがある選手がいる」という状況になる。レース中は過去に勝った選手がいれば、それを勇気にして、過去に負けた選手がいれば、「今度は勝つぞ」とモチベーションにしているという。 さらに日本のトップ選手はメジャーレースに出場したがる傾向がある中で、川内は「優勝争いできるレースの方が何倍もいい経験ができる」と考えて、優勝タイムが2時間10~12分のレースにも数多く参戦。今回のボストンまでに32回の優勝を経験するなど、「成功体験」を積み上げてきたのだ。そのなかで勝負勘が養われ、同時に勝つための戦略を固めてきた。 そして、川内が自身の“ウイニングショット”として磨いてきたのが、「ラストスパート」になる。