「行方不明展」潜入レポート。「怪文書展」「イシナガキクエ」の仕掛け人らが放つ展覧会の“手ざわり”
東京・日本橋の中央通りに面したビルの1階に掲げられた不気味なポスター。ここで本日7月19日~9月1日(日)まで開催されているのが、SNSを中心に大きな反響を集めた考察型展覧会「その怪文書を読みましたか」を手掛けた気鋭のホラー作家の梨と株式会社闇が、「イシナガキクエを探しています」を手掛けたテレビ東京の大森時生プロデューサーと共に作りあげた「行方不明展」だ。PRESS HORRORでは、オープン前に行われた本展覧会のメディア向け内覧会に潜入し、一足先にこの不穏な“手ざわり”を体験してきた。 【写真を見る】「行方不明展」とはなにか、会場の様子を詳細にレポート その名の通り、あらゆる“行方不明”をテーマにしたこの展覧会。展示される映像のディレクターは、「境界カメラ」や「フェイクドキュメンタリー『Q』」の寺内康太郎監督と、『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』で「第2回日本ホラー映画大賞」大賞を受賞した近藤亮太監督が手掛けている。映像も含め、すべての展示がフィクションであることがあらかじめ明言されているのだが、かえってそれがただならぬ不安感を増幅させる。 会場に入ると真っ先に目に飛び込んでくるのは、無数の張り紙で埋め尽くされた両サイドの壁面。“行方不明”という言葉を聞いて多くの人が連想するであろう、行方不明者の捜索を呼びかけるさまざまなパターンの張り紙が来場者を出迎える。会場はビルの1階と地下1階の2フロアに分かれて展開しており、「なにが行方不明になったか」という切り口のもと、4つの展示ルートに分類されている。 まず最初に体験することになる1階フロアの展示は「“身元不明”――『ひと』の行方不明」。会場の中央には公衆電話ボックスが不可解な威圧感を放ちながら鎮座し、壁面には様々な掲示物、殺風景な一角に置かれたモニターには監視カメラの映像が流れ、無造作に積み上げられた携帯電話やペットボトルいっぱいに詰められたタバコの吸い殻などが、インスタレーションとして行方不明になった“人”の輪郭を浮き彫りにしていく。 順を追ってたどっていくと、来場者は一見バックヤードのような狭小な空間へと連れて行かれる。ここからは2つ目の展示ルート「“所在不明”――『場所』の行方不明」となる。 怪談ネットミームとして代表的な「きさらぎ駅」など、行方不明となった人がたどり着いたであろう異界の景色を示すというこのルート。奥まった一角に天井近くまで物々しく盛られた土に、すれ違うのもやっとな薄暗い廊下。展示物・展示映像の不気味さも相まって、自分も異世界に彷徨いこんでしまったのではないかと錯覚しそうになる。 地下フロアに降りると、広々としながらもどこか薄暗く閉塞感のある空間に、2つの展示ルートが展開している。持ち主から切り離されてしまった“物”に着目した「“出所不明”――『もの』の行方不明」、そしてこの展覧会の不穏さをより一層駆り立てる「“真偽不明”――『記憶』の行方不明」。時が止まったように、かつ行方不明の末路を示すかのようにひっそりと置かれた展示物の数々は、物悲しい空気すら携えている。 地下の会場から階段を昇り、むわっとした日本橋の空気を吸い込んだところでようやく我に返ったように感じた。夏の盛りに都会の中心で味わう、行方不明という“現象”。ひとたび足を踏み入れれば、えも言われぬ奇妙な感覚のなかで、フィクションとわかっていてもそこに確実に存在するなにかに思いを馳せずにはいられないはずだ。 「行方不明展」は、東京・日本橋の三越前福島ビルにて9月1日(日)まで開催中。チケット情報などの詳細は、公式ホームページから確認してほしい。 取材・文/久保田 和馬