バイデン米大統領が日本製鉄のUSスチール買収に否定的な姿勢を示す:大統領選挙に翻弄される買収計画
大統領選挙を意識したバイデン大統領の発言
バイデン米大統領は3月14日に、日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収について、「USスチールは1世紀以上にわたって米国を象徴する鉄鋼会社であり、国内で所有・運営される米鉄鋼会社であり続けることが重要だ」と述べた。買収に反対の姿勢を明確に表明はしていないものの、否定的な姿勢を鮮明にしたのである。11月の米大統領選挙に向けて、労組の支持を取り付けることや、USスチールの地元で激戦州であるペンシルベニア州での選挙への影響を意識した発言と考えられる。 買収については、対米外国投資委員会(CFIUS)が認可審査を始めている。CFIUSの審査中に、大統領が買収案件の賛否に関わる発言をすることは異例だ 昨年12月に日本製鉄が買収計画を発表して以降、共和、民主双方の議員からは、バイデン政権に対して、国家安全保障に関する権限を利用して約141億ドル(約2兆円)規模のこの買収を阻止するよう求める声が高まっていた。
労組は買収に反対
買収阻止に向けたロビー活動を積極的に行っているのが、米鉄鋼大手クリーブランド・クリフスとされる。同社は2020年に鉄鋼大手アルセロール・ミタルの米国事業買収などによって、米国第2位の鉄鋼会社に浮上した。同社は昨年、USスチール買収で日本製鉄が提示した買収額に競り負けた。そもそも、米国の大手鉄鋼企業によるUSスチール買収は、反トラスト法(独占禁止法)に照らして当局がその計画を阻止する可能性が高かったのである。 全米鉄鋼労組(USW)は、クリーブランド・クリフスによるUSスチール買収案を支持していた。そして、USWは日本製鉄に買収されることに反対している。 クリーブランド・クリフスは共和党と民主党の議員との会合で、USスチールがペンシルベニア州やインディアナ州などに持つ工場の労働者を日本製鉄が解雇する可能性について、労働組合が懸念していることを強調している。日本製鉄によるUSスチール買収を阻止するため、ゲリラ的なロビー活動を展開しているようだ。 一方日本製鉄は、老朽化が進むUSスチールの製鉄所に14億ドルを投資し、2026年末までは時間給労働者を解雇しない方針を表明している。