FRBのパウエル議長の記者会見-利下げペースの減速
金融政策の運営
今回のFOMCは、FFレートの誘導目標を従来の4.5~4.75%から4.25~4.5%へと前回(11月)と同じく25bp引き下げた。 パウエル議長は、引締め度合いの調整によって政策金利はdual mandateの達成に向けて好適な位置にあり、目標達成のリスクはともに上下にバランスしていると評価した。また、今後も経済指標や経済と物価の見通しの推移、リスクバランスをもとに政策運営を各会合で議論して決定する方針を確認した。 今回(12月)改訂されたdot chartによれば、2025~27年の各年末の政策金利の見通しは3.9%→3.4%→3.1%となり、前回(9月)に比べて、各々0.5pp、0.5pp、0.2ppと明確に上方修正された。なお、事実上の中立金利を意味する「長期」の政策金利も3%になったほか、FOMCメンバーの見方が2.5%~4%に大きく拡散した。 質疑応答では、パウエル議長は、今回の利下げが議論の途上では現状維持との間で意見が拮抗していた(closer call)であった点を認めた(結果的にはHammackクリーブランド連銀総裁のみが現状維持を主張して利下げに反対)。その上で、労働市場の軟化を加速させる必要はない一方、物価の基調は減速傾向にあるとして、今回の25bp利下げが適切との判断を示した。 これに対しては、インフレリスクが上昇した中での利下げに疑問を示す指摘や、パウエル議長の説明からre-calibrationの表現がなくなったことの意味合いを質す向きがみられた。 パウエル議長は、まず、①経済活動が強い、②労働市場は軟化しているが下方リスクが小さい、③インフレ率はなお高い、④政策金利が中立水準に接近した、といった要因を踏まえると、引締め度合いの緩やかな調整が妥当との考えを確認した。また、コアPCEインフレ率が2.5%まで低下することは大きな前進であると反論したほか、re-calibrationは終了していないが、新たなフェーズには入っていると説明した。 さらに、別の複数の記者は次回(1月)FOMCを含めて、当面は利下げを停止する可能性や中立金利との関係を質した。 パウエル議長は、次回利下げの時期には具体的な言及を避けつつ、政策金利が中立水準に接近した以上、政策効果を見ながら調整ペースを緩やかにすることが適切との考えを確認した。 もっとも、中立金利は何もショックがない状況の下でマクロの需給がバランスした際の水準であるほか、推計モデルが多数併存するなど不確実性が高いとして、政策変更の時間的ラグも考慮しつつ見通しに取り込むことが必要との見方を示した。 井上哲也(野村総合研究所 金融デジタルビジネスリサーチ部 チーフシニア研究員) --- この記事は、NRIウェブサイトの【井上哲也のReview on Central Banking】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
井上 哲也