最後のトップリーグ新人賞を獲得の金秀隆、王者ブレイブルーパスで感じた驚き。
移籍市場が活性化している日本ラグビー界にあって、この人も決断した。 金秀隆、26歳。実質プロ4季目を迎えるにあたり、「新しいチャレンジ」に踏み切った。 一昨季のリーグワン1部で初優勝したクボタスピアーズ船橋・東京ベイから、昨季王者の東芝ブレイブルーパス東京へ移った。 10月31日、都内の本拠地で会見した。コベルコ神戸スティーラーズから加わった池永玄太郎、酒木凜平の間に挟まれ、マイクを手にした。 「目標は2連覇。そのためにチームに貢献できるよう、頑張っていきたいです」 主戦場は最後尾のFBで、タッチライン際のWTBでもスタンバイ可。身長186センチ、体重90キロと堂々たるサイズにあって、つかみどころのない走りを繰り出す。 国内最高峰のシーンで最初に注目されたのは、異色のキャリアだった。 関東大学リーグ戦2部の朝鮮大出身。スピアーズでゼネラルマネージャーだった石川充(現ビジネススポンサーシッププロデューサー)に見出され、2020年にスピアーズの門を叩いた。 まもなく定位置を確保。2021年1月からのトップリーグの最終シーズンでは、新人賞に輝いた。下部リーグ出身者では史上初受賞となった。 翌年度からはWTBも任される中、同じ位置へ根塚洸雅、木田晴斗を相次いで迎えた。2人はそれぞれ、ルーキーイヤーにリーグワン1部のタイトルを取った。根塚は新人賞、ベストラインブレイカーを、木田はベストラインブレイカーを獲得した。 3人は普段から仲が良く、グラウンドでも攻撃について意見をかわすなど切磋琢磨。一方、クラブが初優勝に沸いた2022-23シーズン、金はわずか4試合のみの出場に止まった。辛酸をなめた。 再浮上を期する中、もらったのがブレイブルーパスからのオファーだった。 ブレイブルーパスでは昨季、26歳の松永拓朗がFBとしてフル稼働した。かねての本職だった司令塔のSOでプレーしたゲームを含めれば、18度あった公式戦のうち17度も出場。今秋には日本代表となった。 WTBでは、ジョネ・ナイカブラが圧巻のランニングを披露。昨秋のワールドカップフランス大会で日本代表だった30歳は、一時故障に苦しみながらもレギュラーシーズン、プレーオフで計12トライをマーク。オフ明けからの代表活動にも絡む。 今年12月からの新シーズンでは、交流戦が2つ増える。ブレイブルーパスは、国際舞台に出た選手へ適宜、休息を与えながらも、タイトなスケジュールのもと連覇を果たそうとしている。金の参加は心強い。本人は意気込む。 「チャンピオンチームに呼んでいただいて、ラグビーも楽しそう。これはもう、行きたいし、行くしかないと思って決めました」 実際に加入すると、ブレイブルーパスの看板である組織的な攻めに「客観的に見ていて楽しく、実際に入ってもそう感じました」と満足する。 特に注目するのは、リッチー・モウンガの存在だ。 ニュージーランド代表経験者である30歳は、来日初年度の昨季、リーグMVPとなっている。SOとしての技術、戦術眼に、金は感嘆する。 「リッチーのことは、ずっと映像で見てきて世界一のプレーヤーだと思って来ました。何が凄いのだろうと(再確認すべく)練習していたら、彼は常に空いているスペースを見てアタックしている。全然、形にこだわっていなくて、外が空いていたらずーっと外に攻めるし、FW(接点周辺)で崩せそうだったらずっとそうするし…とか」 自身もモウンガが統率するラインへ入り、持ち味を活かしたい。 (文:向 風見也)