民主党代表選を見るポイント ―「保守」と「リベラル」を中心に ― 内山融・東京大学大学院教授
今回の民主党代表選について、事前の報道では、民主党単独で再建を進めるのか(自主再建路線)、他党との合同も視野に入れて党再建を図るのか(野党再編路線)という再建路線の違いが主要な対立軸になると予想されていた。しかし、7日の記者会見で、これまで維新の党との合流に積極的であると見られていた細野豪志候補が、「考え方の違いが大きく、一緒になるのは現実的に難しい」と述べ、野党再編論を封印した。このため、自主再建か野党再編かという問題は、争点として重みを失ってきたようである。 より重要となると思われるのは、民主党の基本的政策がどこに向かうのかという点である。民主党は、自民党から社会党までさまざまな政党の出身者を母体として成立したという経緯から、それぞれの議員が持つ政策志向が右から左まで幅広い。この点は一般に、「保守」と「リベラル」の対立として理解される。しかし保守やリベラルという概念は融通無碍なところがあり、実際に何を指すのかわかりにくい。ここで民主党における保守とリベラルとは何かについて、経済政策と外交・安全保障政策を中心に整理しておきたい。
まず「保守」は、経済政策では市場原理を重視する(細かくいえば、民主党の「保守」は新保守主義である。伝統的な保守主義が共同体のつながりなどを重視するのに対し、新保守主義は市場志向の新自由主義に立つ)。社会保障の充実など「大きな政府」よりも、規制緩和や歳出削減など「小さな政府」を好む。外交・安全保障政策では、防衛力充実や日米同盟の強化を目指す立場である。こうした「保守」の側とされるのが岡田候補と細野候補である。 一方「リベラル」は、経済政策では、社会保障などの再分配を重視する。基本的には「大きな政府」志向である。外交・安全保障では、自衛隊や日米同盟の役割を限定する立場である。長妻昭候補が「リベラル」の旗幟を鮮明にしている。 ところで実は、「リベラル」の概念は曖昧さを含んでいる。国際的に見ると、英国などヨーロッパでは、「リベラル」とは文字通り自由主義の立場を指す。歴史的に見れば、絶対的な王権を制限し、議会を拠点に自由を守っていくというのがリベラルの起源である。そのため、ヨーロッパの「リベラル」は、政治権力の制限(政治的自由)や市場原理の尊重(経済的自由)を掲げる。一方、アメリカでの「リベラル」とは、社会保障の充実やマイノリティの権利擁護などを強調する。米国の民主党の立場であるが、経済政策的にはヨーロッパでいう「社会民主主義」に近い。すなわち、ヨーロッパとアメリカで、「リベラル」の意味が大きく異なるのである。日本の民主党における「リベラル」は、アメリカ的な意味に近いと思われる。(個人的には、「保守」にも伝統的保守主義と新保守主義があり、「リベラル」の意味も国・地域によって違うので、「中道右派」(センター・ライト)や「中道左派」(センター・レフト)といった概念を使った方がすっきりすると考えている。)