弘前大、太平洋戦争の激戦地・パラオに学生派遣へ 平和教育、医療の現状視察
弘前大学は本年度から4年間、平和教育の実践と海外医療事情の視察を目的に、太平洋戦争末期の激戦地パラオへ学生を派遣する。100人以上の青森県出身者が戦死した同国の戦跡を見学し戦争の悲惨さ、平和の尊さを学んでもらう。医学生には国立病院の視察を通して医療者としての意識を高めてもらう。29日、関係者の話で分かった。 派遣事業は、2029年の弘大創立80周年記念事業を前倒しする形で27年度まで行う。文京町キャンパスの5人、医学部がある本町キャンパスの5人の計10人の学生を毎年選抜する。派遣期間は5日間程度で、本年度の派遣は来年2月を予定している。 費用は、民間からの寄付が原資の修学支援基金を活用する。学生は激戦地ペリリュー島の慰霊碑、兵士が身を隠した洞窟、火砲の残骸、旧日本軍司令部などを視察する。「ベラウ国立病院」では限られた医療スタッフと機器で病院を運営している現状を見学する。事業の詳細は11月の同大役員会で正式決定する。 パラオでは1万6千人の日本兵が死亡したとされるが、多くの遺骨が現地に残されている。福田眞作学長がこの現状を報道などで知り、教養教育の一環として派遣事業を検討してきた。弘前市の医療機器販売「シバタ医理科」の元会長・阿部隆夫さん(74)が30年ほど前から、パラオに聴診器や車椅子などの医療資材を提供し、同国とのパイプがあることから、阿部元会長の支援を受けて準備を進めてきた。 10月中旬には福田学長と阿部元会長がパラオを訪れ、現地の関係機関や在パラオ日本大使館などと、学生派遣について意見交換。ベラウ国立病院に医療機器を寄贈した。 阿部元会長は東奥日報の取材に「世界で戦争や紛争が絶えない中、太平洋戦争の多くの遺構が残るパラオを訪れることは、平和や戦争について考える良い機会になるのではないか」と語った。 青森県護国神社の資料では、パラオで戦死した青森県出身者は102人で、このうち28人が本島で死亡し、70人以上がペリリュー島やアンガウル島などで戦死している。ペリリュー島では、県出身者も所属していた旧陸軍第14師団戦車隊の戦車が埋まっており、日本戦没者遺骨収集推進協会(東京)が戦車を発掘、遺骨を収集する作業を行っている。 また、青森県の民間調査団が10月、パラオ本島の密林地帯で、所在地が不明だった野戦病院「和久井病院」の跡を確認。大量の薬品が散在しているのを発見しており、12月に周辺の埋葬地調査に入る。