体力の衰え、キャリアの先が見える時期、親の介護......。「40代後半が人生で一番幸福度が低い」説を徹底検証!
――ツラいですね。 熊代 でも、多くの人はミッドライフクライシスをうまく乗り越えているんです。 自分のアイデンティティを仕事や容姿などから、別のものに変えていく。例えば、ライフバランスが仕事80%で家庭20%だった人は、仕事50%、家庭30%、趣味20%といった感じに変えてみる。自分がこだわっていた部分を少しずつ違うものに移していけば乗り越えられます。 実は、昔はこうしたライフスタイルの移行がわかりやすくできていたんです。 例えば、生まれた地域の子供会に入って、その後、青年会に上がり、やがて老人会に移る。地域の中で年齢ごとの集まりがあった。そして「老人会に入ったら、もう地域の祭りでみこしは担がなくていい」というような決まり事もあった。だから、自動的に年を感じていました。 しかし、今は地域のつながりが少なくなってきて、年齢をきちんと意識する社会装置が少なくなっています。だから、自分のライフステージがわからなくなりがちなんです。 また、今の中年は昔の中年と比べて、見た目も行動も若いといわれています。 それは、いい部分もあるでしょうが、どこか心と体に負担をかけているかもしれません。もし、若くなくてはいけないという思い込みが人生の次のステージへの移行の妨げになっているとしたら、少し見直したほうがいいでしょう。 ――自分の年をちゃんと認識するというのが、ミッドライフクライシスを乗り越える対処法なんですね。 熊代 そうですね。ほかにも、ミッドライフクライシスの対処法として有効なのは、今、自分が抱えている悩みや「これからどう生きればいいのか」といった人生の目的をロールモデル(お手本)になる人を見つけて参考にすることです。 昔は老人会に年上のロールモデルになるような人がいて、いろいろ悩みを聞いてもらっていたはずです。同じように、例えば10歳くらい年上の人生の先輩に相談をすると、いいアドバイスがもらえるかもしれません。 逆に10歳年下の後輩を誘って飲みに行くのもいいです。年下と話していると「自分は下の世代から見ると、こんなにおじさんだったのか」と認識できますから。 ミッドライフクライシスの時期は、人生の次のステージを考える時期だと思います。 そして、「幸福度が一番低いのが40代後半」だというのなら、これからは幸せなことが増える可能性があるということです。そのために自分のライフスタイルを考え直してみるのは悪いことではないと思います。 * * * 40代後半の幸福度は低いかもしれないが、自分の年をちゃんと意識して行動すれば、その後の人生はすてきなものになるかもしれない。 ●熊代 亨(くましろ・とおる) 1975年生まれ、精神科医。近著に『人間はどこまで家畜か 現代人の精神構造』(ハヤカワ新書)、『「推し」で心は満たされる? 21世紀の心理的充足のトレンド』(大和書房)などがある。 取材・文/村上隆保 イラスト/はまちゃん