「ビタちくをまた食べたい」「リーゼントにすべてを込めて」「高い学費を払ってくれた親への感謝」能登地震を越えて恒例の“カナビ”仮装卒業式が開催…OBの東村アキコ氏もエール
卒業生・東村アキコのした仮装とは…
東村さんは、自身の卒業式当時の思い出を懐かしそうに振り返る。 「金沢美術工芸大学の仮装卒業式は昔から伝統的にやってるんですが、 私の時代もすごくて、私自身は手作りの全身うさぎの着ぐるみで出ました。 同級生は天井まで届きそうなロケットの中に入ったり 髪を爆発させてパジャマに炊飯器を抱えて火事から逃げてきた人を模したり、 ズボンの下で竹馬に乗って身長が2メートル60センチくらいになっている人も。 卒業写真を撮る時にはグラグラしないように学長の肩に手を乗せていました。 もうめちゃくちゃですよね。でも、その伝統が今も受け継がれてて嬉しいです」 東村さんの漫画にも登場していたように、この日の卒業式にも地元のテレビ局が取材に来ていた。昨年も取材していたという民放テレビ局のリポーターはいう。 「昨年はW杯・日本代表の三笘薫選手が話題となった、ライン上をギリギリでアシストしたときの写真を模した“三苫の1㎜”を表現した学生が特に話題となっていました。今年は能登地震で工場が被災し、出荷が一時停止してしまっていた水産加工品メーカー・スギヨの“ビタミンちくわ”になりきって『ビタちくをまた食べたいです』といっている学生が印象的でした。これぞカナビの仮装で、いわゆるコミケのコスプレイヤーやハロウィンの仮装との違いを感じながら毎年眺めています」 「本当は普通に袴を着たかったけど、カナビで袴を着るのは痛いんで(笑)。母に聞いたら、私の“みう”という名前の由来はファッションブランドの“MIU MIU”(ミュウミュウ)からきてるそうなんです。美大の高い学費を払ってくれた親への感謝の思いを込めて、MIU MIUの香水の仮装を作りました。作成時間ですか? 1日です(笑)」
大学への感謝と仲間への思いで迎えた晴れの舞台
また、会場でもひときわ目立っていた「北九州市のド派手な成人式」の仮装をしていた3人組の二宮海さん(25)、山岸眞弥さん(29)、石田愛莉さん(24)にも話を聞いた。 「限られた時間と材料で、3人が大学で培ってきた造形力で制作しました! 自分は熊本出身で、美術系の高校に通ってるときにも熊本地震で被災しました。マグニチュード6強あった地域に住んでいて、発生後1週間くらいは車中泊で過ごす日々でした。なかでも、製作中だった高校の卒業作品が壊れたことが悲しかったです。 能登地震は実家にいたから被災しませんでしたが、やはりあのときを思い出して胸が苦しくなりました。でも、こうして晴れの舞台を迎えられてよかったです!」 「押忍! 2年間作品とメンチを切り合ってきたあの熱い思いを、この日のリーゼントにすべて込めました! 襟足の長さと衣装の派手さはカナビへの感謝の大きさです! 私は金沢市出身ですが、地震の影響は比較的少ないほうでした。メイン会場が被災して立ち入れなくなって開催が危ぶまれた21世紀美術館での卒業・修了展も無事行なうことができてホッとしています」(山岸眞弥さん・29) 「自分は岡山出身なので地震のときは帰省していて、被災はしませんでした。同期の作品など幸いにも卒業制作に被害がなく、無事に修了展を行なうことができてうれしかったです。今回の仮装は、とにかく派手にメデてえ感じでやりたくて。『俺が主人公だ!』という北九州の新成人の皆さまの心意気を胸に制作しました」(石田愛莉・24) 「手で考え、心でつくる」をモットーに創造力を高めながら過ごした4年間。その最後は自分自身が作品となって幕を閉じる。入学式はコロナ禍で中止となり、卒業式も震災の影響で開催が危ぶまれた。そうした困難をくぐり抜けての無事の開催には、学生たちのさまざまな思いが交錯し、はじける卒業式となった。 《後編》へつづく 取材・文/河合桃子 撮影/集英社オンライン編集部