<香港デモ>民主派「怒りの占拠」の背景は 民主主義がアイデンティティに /立教大学・倉田徹准教授
「反洗脳」世代の若者とネットの力
こうして香港ではデモなどの「街頭政治」が成長したわけですが、その背景にはネットで武装した若者の存在も欠かせません。現在の高校生・大学生は返還前後に生まれた世代で、高度成長や返還バブルなどの香港の「古き良き時代」を知らない一方、「中国化」する香港の将来への不安や不満を最も募らせている世代でもあります。彼らはITを駆使して集会や活動を呼びかけ、あまりお金をかけずに瞬く間に巨大な運動を組織してしまいます。ちなみに、中国大陸では使用が禁じられているfacebookですが、昨年の調査では香港では人口700万人あまりに対してfacebook利用者は430万人に達するとされ、総人口に対するユーザーの割合は世界一でした。 若者の力は2012年、大きな成果を生みました。香港政府が当時小・中・高の必修科目として導入を予定していた「国民教育科」に対し、高校生などの若者は共産党式の愛国教育の導入であると反発を強め、「反洗脳」をスローガンに政府庁舎前で数万人規模の抗議活動を繰り返し、ついに政府に「国民教育科」導入を断念させたのです。この成功体験が、学生運動に大いに自信を与えました。
1年以上前から計画された今回の占拠
今回の道路占拠は、少なくとも1年以上前から、学者などが中心になって計画されてきたものでした。北京が民主的な選挙を認めなければ道路を占拠するとこの運動の主催者たちが宣言していたにも関わらず、北京がそれを無視して8月31日に民主派の出馬を制限する選挙制度を決定したため、抗議活動が実行に移されたのです。 この運動でも、主力になったのは「反洗脳」世代の学生・若者でした。当初は学生による限られた規模の抗議活動でしたが、9月28日、両手を挙げたり、雨傘を広げたりと非武装で立ち向かう学生や市民に対して、警察が催涙弾で排除を試みたことで、市民の怒りが爆発しました。これをきっかけに、今回の大規模な抗議活動が発生したのです。このように、ここに至るまでには、返還後の香港の様々な不満の蓄積があったのです。