逆転有罪は避けたい…裁判官の独立は“幻想”か 半世紀にわたり袴田巖さんを獄中につないできたもの【現場から、】
<元東京高等裁判所裁判長 木谷明さん> 「無罪判決をすると検察官が必ず控訴しますから、控訴されないような判決を書くというとね、有罪判決になっちゃうんですよ、なりやすい」 木谷さんによりますと、無罪判決を下すと、ほとんどの場合、検察が控訴を選択します。控訴審で一転、有罪判決が下されるような事態は避けたい、これが多くの裁判官が抱く思いだといいます。 <元東京高等裁判所裁判長 木谷明さん> 「上級審で取り消される判決、決定をすると、それは人事考課上不利に働くと考えられますよ。あの人は間違った裁判をしているんじゃないかというふうに見られちゃうんですね」 「すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される」 日本国憲法では裁判官が従うべきは、憲法と法、そして自身の良心だけと定めています。 元裁判官で書籍などを通じて、裁判官の「官僚的な側面」を問題視してきた瀬木比呂志教授です。 <明治大学 瀬木比呂志教授> 「裁判官の出世システムがあること自体が非常に問題です。裁判官はキャリアの出世の階段と異動ということで、当然、人事について最高裁を意識しますからね。それはいけないと言っても、残念ながら人間だから影響を受けることは避けにくいですよね」 出世や全国各地にある裁判所への転勤など裁判官の人事権は、最高裁判所が持ちます。裁判官には自分の下す判決が最高裁の方針とズレていないかなど、裁判官が顔色を伺うようことが現実としてあると瀬木教授は話します。 <明治大学 瀬木比呂志教授> 「江戸時代に『大岡裁き』幻想を人々は非常に持っていた。それは、いまでも残っているんですよ」 大岡越前、遠山の金さん、日本人は「裁判官は超越的な人間で、最後は必ず真実にたどり着くはず」という幻想があると指摘します。 厳しい取り調べの末、犯行を自白した袴田さんにとって、裁判所は最後の砦でした。袴田さんは手紙でこうつづっています。 「私は裁判所には無罪がわかっていただけると信じています。我、負くることなし」 瀬木教授は最高裁判所ではなく、市民が司法試験を合格した法律家の中から裁判官を選ぶ「法曹一元制度」の導入を提唱しています。これにより、裁判官は出世意識から解放され、「真の独立」が達成されると訴えます。
静岡放送