住重 新造船撤退、旧「造船大手」転換期。首都圏ヤードまた消える
住友重機械工業グループは、新造船事業からの撤退を決めた。船舶の修繕は継続するほか、洋上風力発電に関連する船舶を造る可能性も残されているが、今後建造ドックで製造するのは洋上風発関連の浮体式構造物などが中心となる。住重グループは、コストが高い首都圏(神奈川県横須賀市)に建造拠点を構える。「いつかはこうなるのでは」(関係者)との見方があったものの、かつての「造船大手」の一角を占めた住重の今回の決断は業界関係者を驚かせている。 ■「いつかは...」 住重は14日、2023年12月期決算と「中期経営計画2026」に関する会見をオンラインで開催。新造船事業からの撤退を明らかにした。 下村真司社長は「ドックは一部修理船(修繕)で利用するほか、今後やろうとしている洋上風力発電向けの大型浮体式構造物製造に適している。有効活用しながら『脱炭素』に貢献したい」と説明した。 住重グループでは、造船事業を100%子会社の住友重機械マリンエンジニアリング(本社・東京都品川区、資本金20億円、宮島康一社長)が担う。ドックのある横須賀造船所(神奈川県横須賀市)で11万重量トン超のアフラマックスタンカーを年3隻規模で建造。24年に入り成約はストップしており、受注済みの7隻を26年1月までに引き渡す。22年12月時点の従業員数は413人。手持ち工事の業務が残っていることもあり、人員削減の予定はない。最終船建造終了後に配置転換などが行われる可能性がある。 今後は、旧船舶事業が含まれるエネルギー&ライフラインセグメントの戦略に基づき、脱炭素エネルギー領域での洋上風発関連中心の海洋構造物および関連船舶、風力推進コンポーネント、資源循環領域では修理船事業、サービス領域として風力推進関連のエンジニアリングなどに注力する。 新造船事業からの撤退について、会見で渡部敏朗取締役専務執行役員CFO(最高財務責任者)は、「新造船は採算的に苦しく実質赤字状態だった。事業を担っている住重マリンエンジニアリングは船舶の修繕も行っており、その収益で赤字をカバーする面もあったが、近年はそれができない状況だった」と、今回の事業の再構築につながった背景を紹介した。 住重グループは造船関連事業では、1988年にディーゼルエンジン部門を分離し、IHIと共同でディーゼルユナイテッド(現三井E&SDU)を設立したほか、95年にIHIと共同で艦艇に関する合弁会社マリンユナイテッド(現ジャパンマリンユナイテッド〈JMU〉)を立ち上げ、03年には造船部門を分社化し住重マリンエンジニアリングを発足させるなど、これまで相次いで構造改革を進めてきた。 住重マリンエンジニアリングは、建造船種をアフラマックスタンカーに絞り、トヨタ自動車に倣った生産方式を全面展開することで、効率化を推進。宮島康一社長は22年の就任時に本紙インタビューで「建造船種を中型タンカーに絞り、造り込み、コストダウンにつなげ、顧客価値を維持しつつ建造効率を追求している」点を強調していた。 今回、他の国内造船会社とのM&A(合併・買収)を含む再編も選択肢としてあったはずだが、「船種を特化させているほか、工場が首都圏に立地しており、固定費などの側面で検討が難しい」(宮島氏)ことなどにより、具体化につながらなかったとみられる。 ■それぞれの道 かつて「造船大手」と呼ばれ、多くが造船業を祖業とする総合重工では、再編などを踏まえ造船事業を維持・拡大させる動きがある一方、旧三井造船(現三井E&S)グループは首都圏の千葉県市原市にあった工場を含む国内建造拠点をなくし、造船子会社の株式を常石造船に66%譲渡。本体は舶用エンジンや港湾クレーンを主体とする新体制を構築した。日立造船は造船事業を分離後、他社の同事業との統合で立ち上がった造船会社の持ち株を21年までに全て手放し、今年10月には社名を「カナデビア」に変更する。かつての「造船大手」はそれぞれの道を歩み始めた。 (五味宜範)
日本海事新聞社