【新連載】アニメスタジオのここが知りたい! 色彩設計・石黒けいが語る“動画工房の色”
石黒けい「キャラクターの色を決める時に影の色を綺麗にしたい」
●色の基準になるのは“背景美術” ――色彩設計はキャラクターデザインの方とも相談しながらの作業になると思います。オリジナル作品である『夜のクラゲは泳げない』ではどんなお話をしたのですか? 石黒:監督から、実線の一部を色トレス(※ハイライトや影などの境界線を隣接する色に近づけてなじませること)にしたいという希望がありました。それをキャラクターデザインの谷口淳一郎さんとどこに入れたらいいかと相談して、設定していました。谷口さんとは今まで何度も一緒に仕事しているので、結構お任せしてくれます。 ――キャラクター原案はイラストレーターのpopman3580さんですね。原案からどのようにアニメの色に落とし込むのでしょうか? 石黒:原案の色が薄かったり濃かったりしていた部分を統一させていく作業をしていて。竹下良平監督は濃い目の画面を作りたいという希望だったので、特に服の色の彩度をあげています。 ――『夜のクラゲは泳げない』のようなオリジナル作品と、マンガ原作の作品では色彩設計の仕事のやり方で異なる点はありますか? 石黒:マンガ家は色にもこだわる方がほとんどだと思うし、制作側も原作に合わせることを希望することが多いので、原作のカラーイラストは全部欲しいと言ってできるだけもらうようにしています。カラーイラストのないキャラクターや服などの色を設定する時、黒ベタで塗られていたら暗い色にするとかはよくやりますが。キャラクターがひとつの部屋に揃ってる時に同じ色ばかりになると困るので、色を変えることもあります。そういう必要がなければ、基本的にマンガを読んだ時の印象に近い色にしています。 ――『夜のクラゲは泳げない』は現代の東京を舞台にしていますが、色彩設計では現実をある程度参考にされたりもするのでしょうか? 石黒:現実よりも“背景美術”ですね。最初の色の基準になるのは美術だと思っていて、それに合わせてキャラクターの色を作ることが多いです。美術がない段階からキャラクターの色を決め始めますが、最終的に色を決める際は必ずイメージボード(※映像作品を構成する数多くのカットのうち、代表的なカットを描いた絵のこと)などの前に立たせた上で決めます。『夜のクラゲは泳げない』の時は、クラゲの壁画のイメージボードが最初に上がってきたので、それを基準にノーマル色を決めていきました。 ●色彩設計は感覚か、理論か ――石黒さんが考える色彩設計という仕事の魅力はなんでしょうか? 石黒:作業中は大変だし、スケジュールも厳しいし、辛いことの方が多いですが、でも次の作品の話があるとまたやりたくなるんですよね(笑)。自分が色を決めたいという思いが強いのかもしれません。 ――『夜のクラゲは泳げない』は放送前に全話納品していたとお聞きしました。 石黒:納品はしていますが、締切はありますから、スケジュールの大変さは同じですね。他の作品の作業もありますし。 ――色彩の設計のお仕事に必要なセンスはあるのでしょうか? 色のセンスを磨くためにやっていることはありますか? 石黒:私が特にいつも気にするのは、コップに入っている水や涙など“透けているもの”です。それに色を付けるとどういうふうに見えるかなというのは、普段から気にしていますね。アニメ的に単純に水色に塗ることも多いですが、本当に透明な色を表現できるといいなと思っています。 ――色の仕事は感覚ですか? それとも理論で決めているのですか? 石黒:結構感覚ですね。具体的にこの色の影はどういうふうに見えるものだとか、そういう理論はあると思いますが、私は学校で色彩設計について習っていたわけではないので。単純に同じだけ暗くすれば良い色になるかというとそうでもなく。ちょっと色素をずらしたりしないと、きれいな影は作れなかったりするんです。 ――最近のアニメは、昔と比べて線の多いキャラクターデザインが多いので、それに伴い設定する色も増えているんでしょうか。 石黒:ノーマルで作っておく色が増えているように思います。例えば、片方から赤、片方から緑の光を入れたりして、線を違う色にする作品もあって、そういう場合は色を変える時に困るので最初に決めておかないといけなくて。また、影の中の光を作画で描かれる方も最近は多いので、その色も作らないといけなかったりします。 ――動画工房の作品はいつも色がキレイで、なんとなく「動画工房のカラー」があるような気がします。石黒さんが考える“動画工房らしさ”とはなんでしょうか? 石黒:私はキャラクターの色を決める時に影の色を綺麗にしたいと思っています。単純にフォトショップで色を落とすと、グレーを混ぜたような色になるんです。でも、彩度を上げたり、色素を調整したりすることで影をクリアに見せられるので、そういうのが綺麗に見えるってことなのかもしれないですね。他の会社のカラーモデルを見る機会がなかったので、動画工房だけで進化していった結果、何か共通するものが生まれている可能性はあると思います。
杉本穂高