花巻東の初戦敗戦の裏に佐々木登板回避騒動の無形プレッシャーはあったのか?
プロ注目の163キロ右腕の佐々木朗希を擁する大船渡を決勝で破って甲子園に進出したことで話題を集めた花巻東(岩手)は9日、甲子園球場で行われた「第101回全国高校野球選手権大会」の1回戦で試合巧者の鳴門(徳島)に4―10で敗れ4年ぶりの初戦突破はならなかった。菊池雄星、大谷翔平という2人のメジャーリーガーを輩出した岩手の名門を襲っていたのが、「決勝で登板しなかった佐々木の分まで戦いたい」という無形のプレッシャー。登板回避の是非が大騒動となった佐々木問題の余波は“聖地”の戦いにまで及ぶことになってしまった。
「佐々木の分までという思いで投げた」
試合後、メディアに囲まれた野中大輔は何度も言葉を詰まらせた。 4番手として9回にマウンドに上がり、2安打1失点した彼は、大船渡の佐々木と、大船渡一中時代のチームメートだった。 「朗希の分までという思いで投げた。情けないピッチングをしてしまって大船渡のみんなにも申し訳ない」 岩手大会の決勝戦で、佐々木は一度もマウンドに上がることなく、花巻東に敗れた。甲子園出場を決めた花巻東よりも、佐々木の登板回避問題ばかりがクローズアップされ、大きな議論になった。「大船渡を破って出てきた」ことが無形のプレッシャーとなって花巻東にかかることになった。 野中も岩手大会では一度も登板機会がなかった。それだけに一緒に野球をやってきた佐々木の「投げずに負けた」という悔しさが誰よりもわかっていたのかもしれない。だが、その思いを果たすことはできなかった。 花巻東は、左打者が多い鳴門打線対策としてサウスポーの中森至(3年)を先発に立てた。だが、立ち上がりから中森の制球が定まらなかった。1回2死二塁から相手の4番、浦和博に4球連続のボールで歩かせたのは敬遠気味に見えたが、実は我を失っていた。連続四球を与え、満塁にしてしまうと、苦し紛れのストレートを藤中壮太に狙い打たれ、走者一掃の左越え二塁打。重い3点を背負うことになった。 「変化球が曲がらないから、真っすぐに読みを張られて、振りやすい状況をつくってしまった。試合前までは良かっただけに残念です」とは、試合後の佐々木洋監督。その中森は、立ち直りの兆しはなく、53球を投げて2回で早々と降板し、「雰囲気にのまれた。抑えるイメージはできていたはずなのに、力不足です。大舞台で弱さが出てしまいました」と肩を落とした。 ベンチは、流れを変えようと、背番号「1」のエース、西舘勇陽(3年)をここで投入した。「継投のタイミングは想定より早かった。6、7回まで(中森で)いけると思っていた」(佐々木監督)と、ベンチの戦略も狂ってしまい、プロ注目の150キロ右腕もプレッシャーに押し潰された。3回、先頭の浦に左中間を破る二塁打を浴びるとバントで送られ、納田源一郎に右犠飛を許し0-4とリードを広げられた。ストレートは145キロをマーク。能力の片鱗は見せた。佐々木監督も「決して悪くはなかった」という。だが、先発の中森同様に制球が定まらない。味方の守備のミスなどもあって5回に3点、8回に2点と失点を重ねてマウンドを降りた。 「マウンドとブルペンの感覚が微妙に違って、試合の中でそれを修正できなかった。歴代の先輩たちがつけた1番の責任を果たそうと思ったけれど、できませんでした」 菊池雄星、大谷翔平がつけた伝統ある背番号「1」を継承した西舘も、また違う見えないプレッシャーに押しつぶされたようだった。