「日本だけ厳しい」はNO、認証不正問題 基準作りを「武器」にできるかが問われている【岩貞るみこの人道車医】
6月3日におこなわれた認証不正についてのトヨタ自動車の記者会見
トヨタ、ホンダ、マツダ、ダイハツ……と、自動車業界に激震が走った認証不正問題。 この原稿を書いている時点でも、まだ数メーカーが最終確認中だというが、国の認証制度と試験方法がどのように作られ役割を担っているのか、また、日本の認証制度だけが実態に合っていないのか、もう一度ここで整理したい。 【1】安全と環境の基準を決めるWP29とは 自動車は国際的に流通され、「国際基準」と「認証の相互承認(相手国の基準をクリアしたなら、うちの国の基準をクリアしたことにしていいよ)」が不可欠な時代になっている。そこで、国連の国連欧州経済委員会のなかに作業部会WP29が作られ(ほかに作業部会としては、警察庁の道交法が関係するWP1などがある)、国際的に、車両の安全と環境の基準が話し合われている。 WP29のなかには、ふたつの協定がある。「1958年協定」と「1998年協定」だ。「1958年協定」は、認証制度がある国が加盟できる、基準調和と相互承認のためのもの。日本、EU、韓国などが加盟している。一方、「1998年協定」は、認証制度がない国も加盟でき、ここでは基準調和のみ。日本、EUのほか、認証制度のないUSAや中国などが入っている。 WP29で作られた基準を、自国の法律に採用するかどうかは、その国次第。日本は43項目のすべてを採用している。日本の基準で開発・製造しておけば、輸出国ごとの基準で開発したり認証に時間をかけたりする必要がなく、コストが低減できるからだ。 【2】試験方法が実態に合っていない、日本だけが厳しい基準と試験方法を作っているという声もあるが 乗用車の認証に適用されるWP29の43項目(2024年7月時点)は、それぞれ基準、認証プロセス、試験方法がきっちりと規定されている。ひとつの規則につき、数十~数百ページにあるという厳格なもので、中には、「仮想試験法の一般条件」「基準の解釈の問題解決手続き」というものもある。国や国民性によって常識や考え方は大きく異なるものだが、それゆえ、勝手に解釈をしないように、こうした部分まで、しっかりと決められているのである。 また、どういう試験を行うかも、リアルワールドを見て決められている。例えば歩行者保護試験の衝突速度は、大半の事故が時速40km以下で起きていることから採用されているし、後面衝突試験は、現在の車両の平均重量が約1100kgであることから、この重量で行うことになっている。 ちなみに、今回トヨタはUSAの基準である、より厳しい1800kgで行ったと記者会見で述べているが、この試験方法は2006年で終わっており現在は行われていない。つまり、単なるトヨタの車内基準であるにすぎない。USAが変更した理由については現時点では取材ができていないが、ただ重い試験がより適切ではないことが垣間見られる。 「実態に合っていない」「日本だけが厳しい」という声への答えはノーと言っていいだろう。もし、状況が変われば、よりその時の実態に即した基準・試験になるようWP29で変更されるし、協定に加盟している国は、一律、同じ条件だからだ。 では、日本だけ違う基準と試験方法を作ったらどうなるのだろうか。日本の自動車メーカーは国内用、海外用の2つの開発、部品調達、試験、認証などを行うことになる。それこそガラパゴスであり、メーカー負担は増えることになる。それはつまり、開発コストの増加につながり、ひいてはユーザーに車両価格の高騰というかたちでのしかかってくるだろう。今、日本メーカーの8割は海外で販売されている。2割のために、国内基準を作れと言えるのだろうか。 【3】そのWP29の会議で国交省は、勝手に決めてきているのか これももちろん、ノーである。国交省、自動車メーカーの代表などが、チームを組んで会議の場に臨んでいる。事前に国内で何度も話し合い、今、自国の技術はこうだからこういう基準を作ろうと意思決定をしてから乗り込んでいるのだ。当然、自動車メーカーの要望や意見は、この時点で反映されているはずだ。「実態に合っていない」「おかしい」というのなら、この時点でしっかりと意思疎通を行うべきだろう。 【4】国内の試験の現場で試験官が、試験方法に対して柔軟に変更して対応しているという報道もあるが 先に書いたとおり、43項目すべてに細かく試験方法が定められており、現場の人間では変えようがないことが理解いただけるだろう。 もし、対応できる部分があるとすれば、例えば、同じ車でもグレードがいくつもある場合はそれぞれ車両重量が異なるため、ブレーキ試験では一番重いグレードを選ぶなど、「一番不利な車種でやりましょう」と言うことはある。また、歩行者保護試験でも、重量やボンネットの形状が異なると試験結果にばらつきがでるため、一番不利なグレードを申告してもらって行うこともあるという。 ただし、一番不利だと申告されたものが、本当にそうかどうか、また、その一台の試験だけでよいかどうかは、国交省が技術的に検討し、確認してからになる。あくまでも、申告>検討>決定、という流れを踏まえる必要があり、その場で担当者が決めたり、ましてや自動車メーカーが勝手に判断して行えるものではない。 もし、メーカーが勝手に解釈して行うようなことがあり、しかも基準を満たしていないようなことが起これば、当然、WP29の相互認証などでは不可となり、販売はできなくなるどころか、日本は世界的信頼を失うことになるだろう。 【5】では、今回のように、不正が行われた場合、どうなるのか
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レスポンス 岩貞るみこ