留学生の箱根駅伝… 拓大主将・デレセの異色苦労物語
日本人選手にも勝てないデレセの実力に大学側も疑問を持ち始めたが、岡田監督はデレセの可能性を信じていた。「素材的にはいいと確信していました。夏合宿を乗り超えられれば、変身する、と。大学には『9月まで待ってくれ』という話をしたんです」と回顧する。 デレセは故障も多かったが、岡田監督は「大丈夫、大丈夫。これからだ」と励まし続けてきた。そして、20日間で800km以上を走り込むことで、選手たちから「地獄の阿蘇合宿」と呼ばれる熊本・阿蘇でのハードな夏合宿も乗り切った。 「奨学金で生活をしているデレセは、帰国時に手土産を買うため、普段はお金を使いません。100円を惜しむような生活をしているんです。それが夏合宿中、スーパーに行ったとき、みんな頑張っているし、自分にも良くしてくれる、とプリン二十数個をポケットマネーで買って、配ったんです。それくらい性格がいい。宗教上の理由で豚肉は食べられませんが、ほかはすべてキレイに食べます。納豆が大好きなんですよ。食事が終わると、私のお皿も下げてくれる」 日本人より日本人らしい、と岡田監督が評価するほどデレセは日本を学び、競技力も付けていった。箱根駅伝では3年連続で花の2区を担当。1年時は区間11位と苦戦したものの前々回(区間2位)は10人抜き。前回(区間5位)は8人抜きを演じて、4年ぶりとなるシード権獲得に大きく貢献した(チームは8位)。 「自己管理がしっかりできるし、後輩たちにもアドバイスを送る姿を見てきた。主将はデレセしかいない」と岡田監督は主将を打診。はじめは固辞したが、チームメイトの後押しもあり“留学生主将”が誕生した。 そして、最終学年を迎えた今季のデレセは充実している。4月に1万mで28分14秒49の自己ベストをマークすると、10月の出雲駅伝では中盤のエース区間である3区で区間賞。チームも過去最高となる4位に大躍進した。 デレセは11月18日の上尾ハーフも1時間1分50秒の自己ベストで走破している。右脚付け根に痛みを抱えている状態が続き、練習は「7割ほど」だが、岡田監督は「それくらいでちょうどいいんです。4度目の箱根駅伝にして過去最高の出来ですよ」と笑い飛ばす。 選手たちは過去最高順位(7位)を上回る「3位以内」という目標を掲げているが、デレセの野望はもっとデッカイ。 「岡田監督がいなかったら今の私はありません。このチームで優勝して、最後に岡田監督を胴上げしたいです」と大マジメに話す。登録選手上位10名の平均タイムは3種目(5000m、1万m、ハーフ)すべてで、前年を上回る拓大。4年連続の2区が濃厚なデレセの快走が、王者・青学大を焦らすかもしれない。 (文責・酒井政人/スポーツライター)