リニア中央新幹線は「大雪の山梨」を走れるか
では、フードのない部分は、山梨県であれば、どこになるのか。そこは、まだ地元と調整中の段階だ。防音、防災の観点から、地上部も最大限フードで覆う予定のJR側に対して、地元には景観や眺望を楽しむためにフードをかけない方がいい、という意見もある。折衷案として「透明のフードを」という提案もあるそうだ。それでも100%を覆うことはコスト面などでも現実的ではない。どこかで開放された区間に、1メートルの雪が降り積もれば…。 JR側は基本的に「降雪時においても高速走行は可能」とする。しかし、さすがに1メートルの雪の壁を突き破って走らせるとまでは、考えていない。では、何センチの積雪で運休と判断するか。そうした点を含めてまだこれからの検討事項だという。 ■「東海道の代替」だけでいい? 一方、今回の大雪では、JR東日本の営業区間である中央線で3日以上に渡って車両が立ち往生する混乱に陥った。同じく麻痺状態となった中央自動車などを含む交通網において、リニアはどのような位置付けにあるのかを、あらためてJR東海側に聞いた。 「東海道新幹線のバイパスとしての機能を担う路線であり、中央線や中央高速道とは役割や目的が異なります」。リニアはあくまで現在の東海道新幹線の老朽化や大規模災害に対する代替路線だと強調する。では、仮に中間地点でまたほとんどの交通、物流がストップして地元の市民が苦しむことになったとしても、リニアは事実上「素通り」するだけでいいのだろうか。 「地元の感情としては困りますよね」 と話すのはリニアを含めた交通計画を研究する山梨大学工学部土木環境工学科の佐々木邦明教授だ。 「そもそも中央線の輸送量は少ないですから、それを代替するのがリニアの役割ではないというJR側の言い分はわかります。ただ、結果として災害に強い交通機関となるわけですから、役割として何もないというのはどうなのでしょう」 大雪の苦労を自ら体験した佐々木教授は、JR側の想定する融雪装置なども「一般的な雪に対してなら、いいのかもしれないが、今回のような雪だと間に合わないかもしれない」と懸念する。一方で、眺望のためにフードをなくすといった地元の意見は、この大雪被害を受けて変わる可能性も指摘する。 「リニアが走っていたとしても、今回はそもそも市内の交通が麻痺して駅までたどり着けませんでした。地元として災害に強い交通ネットワークをきちんとつくるという課題に取り組む前提で、JR側にも積極的に協力してほしいというのが地元の気持ちかと思います」 (ジャーナリスト・関口威人)