貧困、格差、望まぬ妊娠、パパ活…… これまでのフェミニズム作品に描かれていたことから、更に踏み込んだドラマ『SHUT UP』
これまでにもドラマや映画では、表向きには紳士的で威圧感のない男性が、実は無自覚のミソジニーを持っているという作品はあった。小説や映画にもなった『82年生まれ、キム・ジヨン』に出てくる主人公の夫であったり、野木亜希子脚本のドラマ『獣になれない私たち』に出てくる主人公の彼氏などがそうであった。彼らは、社会の中で男性として生きる中で、無自覚にミソジニーを身に着けてしまった、至ってどこにでもいる男性であった。 しかし、悠馬の場合は、決して無自覚ではない。自分と同じランクの人間であるとみなしている本命の彩のような女性に対しては決してミソジニーを向けたり小バカにしたりはしないが、自分とは別の階層にいると判断した女性に対しては、小バカにしたりミソジニーを向けたり、ぞんざいな扱いをしてもよいと思っているところが、これまでの男性キャラクターとは違うところである。
映画『あのこは貴族』と並べて見る、格差による男女関係の描き方
こうした、格差による男女の関係性を描いたものに、山内マリコの原作の『あのこは貴族』がある。岨手由貴子の脚本・監督で映画化もされた。 『あのこは貴族』に登場する美紀(水原希子)は、地方出身で東京の名門大学に入学するも、学費のためのバイトに忙殺され、そのままドロップアウトしてしまう。美紀は、かつては同じ大学に通っていた弁護士の青木幸一郎(高良健吾)と出会い、関係性を持っていたが、幸一郎は良家の生まれの榛原華子(門脇麦)と見合いで結婚することになる。幸一郎は、美紀とは結婚できる関係性とは違うという認識は持っているが、悠馬のように美紀にだけあからさまなミソジニーや侮蔑を向けることはない。幸一郎にあったのは、逃れられない「家」の呪縛であったのだ。
世の中ではこのドラマ以上のことが起こっているのではないか
そして由紀や恵、彩たちは、悠馬への復讐として、彼がサークルで行っている『VIP』というパーティ(サークル内で選抜されたかわいい女の子と、タレント、商社、メディア系の男性を個室で飲み会をさせるものでると説明されている)のチケットで集めた100万円を強奪する計画を遂行するのである。 この原稿を書いている時点では4話の放送が終わったばかりであるが、100万円強奪は、理由どんなものであれ犯罪であるし(ほかの作品であれば、犯罪描写にこのようなエクスキューズもいらない場合もあるのに、女性のリアルな復讐ものであるということで、このような補足を入れないといけないことにも、若干の疑問を感じるが)狡猾な悠馬が、この事態に黙っているわけはない。 予告を見ると、ますます事態は混乱していくような映像になっていた。由希たちになんとか貧困や抑圧、そして搾取から自由になってほしいという思いを持つともに、サスペンスや復讐劇のハラハラドキドキも増していて、次回が早く見たくてしょうがなくなるのである。 しかし、『SHUT UP』についての今回のこのコラムを読んで、現実には、ここまで酷いことはないと思う人もいるかもしれない。しかし、毎日ネットなどで報じられるニュースやSNSでのやりとりを見ていると、むしろ世の中ではこのドラマ以上のことが起こっているのではないかとも思えるのだ。
text_Michiyo Nishimori illustration_Natsuki Kurachi