市販薬で「パキる」若者の出口のない日常… オーバードーズ “常態化”に国の規制も強まる?
「パキるだけで楽しい」市販薬ODが流行した背景
かつて不安や困難を抱える若者が依存対象にしていたのは「向精神薬」や「違法ドラッグ」などの入手が難しいものだった。しかし、市販薬はドラッグストアなどでも販売され、若者でも簡単に安く入手可能だ。そのため、近年一気に市販薬によるODが広まったと言われている。 高校生のときからトー横などの界隈に出入りするようになったサリナ(仮名、20代)は、男から薬を譲渡されたことがODを覚えるきっかけになったと話す。 「せき止め薬を配っている男がいて、ODについて教えてもらいました。ハマったわけではないけど、つい最近も、みんなで家に集まって、(せき止め薬で)ODパーティーをしました。でも、私の場合、気持ち良くならないんですよね。ただ、みんなで集まる手段です。特に何か話さなくても、パキるだけで楽しいから…」(サリナ) 一方、市販薬を無料で譲渡しているトシ(仮名、20代)がいる。譲渡している市販薬のほとんどが万引きして手に入れたものだという。 「最初は薬局で(せき止め薬を)買ってたけど、最近は基本的にいつもルパンしてる。ルパンって、万引きってことね。いちいち買ってたら、お金が持たないから。入手した市販薬を無料で渡す意味? それは、友達になる手段のひとつ。渡せば、界隈(の人間関係)に入れるし」(トシ) トシは、市販薬を周囲に譲渡することで、トー横界隈にくる若者たちと話をするきっかけにしている。サリナも気持ちよくならないと言いながらODを続けている。OD自体が、人間関係をつくる手段になっている実態があるのだ。
まん延するOD、国は規制強めるが…
社会問題化している市販薬のODについて、国も規制を強めている。 不適正な使用によって依存が生じ得る成分が入っている「濫用等のおそれのある市販薬」について、国は2014年より、薬局や店舗等に対し、中高生等の若年者に販売する場合、名前などを確認し、一人一箱までなど販売量を制限するよう規制を設けている。 昨年4月1日からは、厚生労働省告示(第5号)をもって「濫用等のおそれのある医薬品」の指定範囲も拡大された。 さらに今、医薬品の販売制度を法律レベルで見直そうと、薬機法の改正議論が進んでいる。 「中でも『濫用等のおそれのある医薬品』の問題は、かなり力を入れて取り上げられています。おそらく警察もこの問題は注視しており、現行法でできる範囲で規制を強めているのだと思います」(赤羽根弁護士) 「トー横」が社会的に注目されたきっかけのひとつには、2021年5月に連続して起きた市販薬のODを伴った自殺があった。しかし、そのトー横では、今でも、市販薬のODが流行している。果たして、警察や厚労省の介入は、市販薬によるODを抑えるきっかけになるのか。 「危険ドラッグが流行した際、国が規制を強め、販売をしにくくしたところ10代の危険ドラッグの依存者は激減しました。しかし、一方で市販薬や麻薬、大麻の依存者は増えました。市販薬も規制を強めれば、また別の薬物に手を出す人が出てくる可能性はあると思います」(赤羽根弁護士) 仮に、抑えることができたとしても、市販薬でパキる若者たちの心情や背景もきちんと見ていかなければ、抜本的な解決にはならないだろう。
渋井 哲也