村上春樹「みなさんもできるだけたくさん、優れた音楽を聴いてください」伝説的・名ヴァイオリニストの名言から“音楽”について考える
作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「村上RADIO」(毎月最終日曜 19:00~19:55)。3月31日(日)の放送は「村上RADIO~ダイレクト・カッティング特集~」をオンエア。ダイレクト・カッティングとは、レコーディングをおこなう際、マスター音源をテープに録音して編集せずに、いきなりディスクにカッティングすること。そんなダイレクト・カッティングで録音された楽曲を、村上DJの所蔵するレコードで紹介しました。この記事では、「今日の言葉」について語ったパートを紹介します。
<クロージング曲> Erich Leinsdorf, Los Angeles Philharmonic「Tristan Und Isolde: Prelude To Act I」
今日のクロージングの音楽は、リヒャルト・ワーグナーの歌劇「トリスタンとイゾルデ」より前奏曲です。これもやはりダイレクト・カッティングの録音です。指揮はエーリッヒ・ラインスドルフ、オーケストラはロサンゼルス・フィルハーモニック。 * 今日はダイレクト・カッティング録音のアナログ・レコードだけを使ってお送りしました。全体を通して、何か独特の雰囲気みたいなものを感じ取っていただけたとしたら幸いです。ダイレクト・カッティングって、ただ音質が優れているというだけではなく、そこには何かしら独特の佇まいがあるんです。 今回こうして久しぶりにまとめて聴き直してみて、強くそのように感じました。1枚薄膜がとれて、ミュージシャンと、よりじかに、率直にコンタクトしているような、そんな雰囲気が感じ取れます。今の時代、ダイレクト・カッティングが再評価されてもいいんじゃないかという気が、個人的にはするのですが。コンピュータなんかでいじられすぎた音楽って、時としてけっこう疲れますよね。 今日の言葉は伝説的な名ヴァイオリニスト、ユーディ・メニューヒンさんの言葉です。彼は音楽についてこのように語っています。 「音楽は混沌から秩序をつくりだす。なぜなら、リズムは異なるものに一致を、メロディーはばらばらなものに一貫性を、ハーモニーは相容れないものに和をもたらすからだ」 うーん、なるほど。僕らが優れた音楽を聴いたときに、深く感動し、身体から不純物が洗い流されるように感じたりするのは、きっとそういうことなんですね。ものごとのあるべき姿が、そこにすっと浮かび上がってくるというか。そういう瞬間はやがて消えてしまいますが、そういう瞬間があったという記憶はしっかり残ります。みなさんもできるだけたくさん、優れた音楽を聴いてください。 それではまた来月。 (TOKYO FM「村上RADIO~ダイレクト・カッティング特集~」2024年3月31日(日)放送より)