【視点】中国軍の侵犯 万全の警戒を
中国軍のY9情報収集機1機が26日、長崎県五島市の男女群島沖で領空侵犯した。中国軍機の領空侵犯は初めてで、木原稔防衛相は「主権の重大な侵害」と非難した。 防衛省の発表によると、Y9情報収集機は3日にも沖縄本島と宮古島間や、与那国島沖で飛行しているのが確認された。行動範囲は男女群島沖の周辺にとどまらず、沖縄、八重山にも及んでいる可能性が高い。 中国軍機や艦艇の活動は、実際には多くが沖縄周辺に集中している。中国軍機以外の領空侵犯は、過去にも石垣市の尖閣諸島周辺で発生していた。中国軍のターゲットが沖縄、中でも八重山や宮古といった先島諸島であることをうかがわせている。 こうした中国軍の活動は沖縄県民、特に離島住民に大きな不安を与える。領空侵犯を受け、日本政府は中国に厳重抗議した。沖縄周辺の中国軍の活動には今まで以上に目を光らせ、不測の事態がないよう万全の警戒態勢を敷いてほしい。 訪中している日中友好議員連盟の二階俊博会長らに対し、中国側は領空侵犯について「意図的ではなかった」と抗議をかわしているようだ。 だが、こうした説明はにわかには信じ難い。中国はこれまで、空だけでなく海からも、日本の権益を侵害する行為を常態化させているからだ。 尖閣諸島周辺に常駐する中国海警局の艦船は武装を強化し、領海侵入や、周辺海域で操業する日本漁船への威嚇行為を繰り返している。今回の領空侵犯も、尖閣周辺での活動とセットと見るべきだ。日本への圧力を質量ともに強化する戦術の一環と考えたほうが分かりやすい。 中国が密接な関係を築くロシアは、国際社会の非難を無視し、堂々とウクライナを侵略した。国境線を武力で変更する行為が21世紀の今日でも有効であるとアピールしている。中国も南シナ海や日本の先島諸島周辺で、同様の思考形態によって領土拡張を図っていると見るほかない。 特に先島諸島は、将来の台湾侵攻を考えても戦略的価値が高い。今のところ中国が日本の離島を奪うための露骨な行動に踏み切っていないのは、自衛隊と日米同盟の存在が抑止力になっているからだ。 玉城デニー知事は独自の地域外交に乗り出し、抑止力の強化はかえって地域の緊張激化を招くとして、平和外交による問題解決を訴えている。米軍普天間飛行場の辺野古移設に反対し、県内で続く自衛隊の増強にも批判的な言動を繰り返している。 だが、日本が抑止力の強化をためらい、辺野古移設を巡って米国との摩擦を引き起こせば、中国はその間隙を突くことだろう。住民が最も懸念するのは、八重山周辺が南シナ海のようになる事態である。 県が基地負担の軽減を訴え、他国との人的、文化的交流に努力していることは評価できる。だが防衛力の強化や同盟国との連携という県民の安全にかかわる問題に関しては、県も政府と共同歩調を取るべきだ。