噺家生活15周年の月亭方正が語る落語とテレビへの思い「今は結局、松本さんが作った庭で遊んでるだけ」
■あんな本当の天才とどうやって並ぶの? ――かつて『志村Xシリーズ』(フジテレビ系、96年~00年終了)に出演されていましたが、志村けんさんと松本さんの作り方に違いは? 方正 志村さんの場合は、もう練り上げられた台本があって、そこから考え始める。「このシーンをもっと面白くするために、こうするのはどうだろう」みたいな。 ご自身も枝雀師匠の落語に感銘を受けて「やらせてもらってよろしいですか?」とお伺いを立てて酔っ払い役を演じていたと聞いたことがあるし、ほかにも「ハイサイおじさん」と「変なおじさん」を結び付けたりっていう1から100の天才の方やったしね。 松本さんは0から1を生み出すオリジナルの天才やった。若者を中心に日本中が熱狂した理由はそこにもあったと思うねん。それで思い出すのはダウンタウンがゴリゴリの時代、『生生生生ダウンタウン』(TBS系、92年~93年終了)で視聴率が振るわないってなったときのこと。 今田さん、東野さん、僕とか、レギュラーメンバー各々の企画があって、それを見た松本さんが「お前ら全然あかん!」ってブチ切れて。「お前らなんで大金もらってるかわかるか? 人と違うことをやって初めて金がもらえんねん。古いもんとかはブッ潰していかなあかんねん」って感じで。それで僕、「感化されたらあかん!」と思って、ずっと古典に近づかないようにしててん。だから落語も聞かないようにしていた部分があって。 けど、後で聞いたら松本さん、小学校時代に落語めっちゃ見に行ってんねん。「俺、貧乏やったけど町内に来てる落語は無料でけっこう観れた」って言うてました。「なんやねん」と思ったけど(笑)、だからあの人は突拍子もないことを言ってても地に足のついたボケになる。絶対そこには落語の基礎があると思います。 ――噺家になってから「松本さんがやってたのはこういうことか!」と気付くことは? 方正 そういうのはないです。松本さんは宇宙人と思ってるから正直考えてない。あんな発想もできひんし、比べたり考えたりしたら落ち込むんですよ(苦笑)。 僕、思うねんけど、今の人気タレントがダウンタウンの下にいたらあんなに売れてないと思うねん。「あんな本当の天才とどうやって並ぶの?」って絶対悩むから。今田さんや東野さんも今の位置には絶対に行ってる才能のある人たちではあるけど、『(ダウンタウンの)ごっつええ感じ』(フジテレビ系、91年~97年終了)をもっと長くやってたらちょっと遅れてたかもしれません。それぐらい圧倒的な存在だと思う。 そんな人にはなられへんけど、もう俺も56歳やし、今から第2次東京進出してガンガン落語やっていかんとと気を引き締めてます。あと5年で噺家としても20年になりますから。あくまでも軸足は関西ですけど、これから関東で週1回ぐらい落語やっていこうと思います! ■月亭方正(つきてい・ほうせい) 1968年2月15日生まれ、兵庫県西宮市出身。88年デビュー。翌年、コンビ「TEAM-O」で東京進出。93年にコンビを解散し、ピン芸人となる。現在も続く『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』などでテレビの人気者に。08年から落語家に転身。13年から全活動を「月亭方正」で行なう 取材・文/鈴木 旭 撮影/鈴木大喜