『燕は戻ってこない』Pに聞く、貧困・不妊治療・女性向け風俗…繊細なテーマをドラマ化した理由
強烈な衣装を与えた”平岡”
次に自分自身の遺伝子を残すことに強いこだわりを持つ基役の稲垣吾郎を起用した経緯として、「基は女性から反感を集めかねない役ですので、『基は不快』『もう見ない』となってしまうと困ります。ですので、『嫌悪感を覚えてもどこか憎めない』と思わせるチャーミングさを持つ役者でなければいけない。加えて、バレエ界のサラブレットです。上品な美しさも兼ね備えた役者に演じてほしいと思った時に稲垣さんの顔が浮かびました」という。 「稲垣さんと話した際に、『僕は基とは違う人間だけど、僕もひょっとしたら無意識のうちに女性を傷つけているかもしれない』『基の考えていることで理解できる部分もあるので、そういうところを丁寧に演じていきたい』と口にしていました。誠実に基という役と向き合っていただいているので、本当に引き受けてくれて良かったと思った瞬間でした」 また、リキに何かとケチをつける平岡(酒向芳)は、登場回数が少ないながらも強烈な印象を残した。酒向を起用した理由として「演出担当の田中健二が『平岡は酒向さんしか考えられない』と最初から言っていたのでお願いしました」と説明。 「田中には『平岡にはどうしてもヘルメットを被せたい』という強いこだわりがありました。私としては『ヘルメットを被せたくらいで何が変わるの?』と正直半信半疑だったのですが、映像を見た時にその理由に気付きました。“自転車に乗る際はヘルメットを被る”という交通ルールをしっかり守っているにもかかわらず、リキには陰湿かつ強気に接していることが対比となっており、平岡の怖さがより引き立っていました。ヘルメットを被せた演出にはついつい『恐れ入りました』と思いました」 最後にどのように本作を楽しんでほしいのかと聞いたところ「ただただ楽しく視聴してもらえればと思います。ただ、話数が進んでいく中で、何か気付きを感じ取ってもらえると嬉しいです」と語った。 クライマックスに向かってどんどん不穏な空気が色濃くなっている『燕は戻ってこない』。どのような結末を迎えるのか不安でもありながらも同時に楽しみでもある。
望月 悠木