雑草(10月20日)
「雑草という名の草はない」。植物学者・牧野富太郎の名言とされる。全国の野山を歩いて40万点の標本を集め、1500種類を命名した。1940(昭和15)年刊行の「牧野日本植物図鑑」は今も、草花を愛する人のバイブルだ▼散策の格好は、ちょうネクタイに丸メガネ、肩から大きなかばん。植物を敬う心が表れていたのだろう。自らを「草木の精」と称し、研究に没頭する。たくさんの命に囲まれて生きている幸せをかみしめた▼東京都から昨年、大熊町に移住した男性は、生物の多様性に心を揺さぶられた。日々の生活で目にした草木、虫、動物を写真に収める。これまでに撮影したのは500種余り。名前や特徴を一つ一つ調べる。「人間はさまざまな生き物と共存していることを知ってほしい」と願い、交流サイトで発信している。写真の一部を使ってカードを作り、「仲間」をそろえるゲームを考案した▼8月末に大会を開き、参加者から「親しみがわいた」との感想も届いた。大会を続けるというから、ぜひ参加してみたい。雑草など存在しない―。それぞれの個性を秘め、復興の大地に根を張る。たくましい命に、苦難を超えて生きる決意を学ぶ。<2024・10・20>