阪神の李大浩獲得失敗に見えた問題点
オリックス、ソフトバンクで活躍後、昨季はマリナーズでプレーした李大浩内野手(34)が韓国のロッテ・ジャイアンツと4年、約14億6000万円の契約で合意に達したことが発表され、一塁が空白だった阪神入りは消滅した。これで日本野球を経験しており、ある程度計算の立つ選手で空白の一塁を埋める補強案は泡と消えてしまった。 阪神では引き続き、いつでも獲得に動けるように「一塁の大砲」候補のリストアップ、調査を進めていく方向だが、キャンプ、オープン戦を通じて、日本野球に対応させる時間を作ることなく、シーズン途中で来日する新外国人が成功する確率は極めて低い。ごくまれにフィットする新外国人もいるが、よほどの条件が整った場合に限られる。 そもそも、李大浩に関しては阪神の獲得失敗というよりも行動に移していなかった。阪神は、現状や必要条件などの調査は行っていたが、本格的な獲得交渉には乗り出していなかった。 阪神では1億円を超える補強に関しては、本社役員会の決済が必要で、つまり坂井オーナーの承認が必要になるのだが、李大浩を獲得するためにそういう本社内の手続きをしようとする動きもなく、メジャー、韓国及び日本の他球団が、李大浩のエージェントと獲得交渉を行っていたのを指をくわえて見ていたのが現実なのだ。 FAでオリックスから阪神に移籍した糸井嘉男(35)の獲得には、オリックスが提示していたとみられる4年18億円以上、もしくは同等の条件を出した。このときは球団首脳が坂井オーナーに掛け合って、本社役員会の承認を得て獲得費用を捻出したが、すでに新外国人のエリック・キャンベル内野手(29)、 ローマン・メンデス投手(26)の獲得も決めていて、オフの補強予算はとっくにオーバー。そのため李大浩の獲得交渉に踏み込むことができなかったのである。
金本監督も、一塁の空白問題が浮上してから坂井オーナーと何度も顔を合わせており、新外国人の獲得を直訴する機会はあったのだが、その要望を現場レベルから出すことはしなかった。糸井の獲得に関しては、直接交渉の席に同席するなど、金本監督は動いたが、基本的には“フロントから与えられた戦力で戦う”という組織の原則を守っていて無理は言わなかった。 李大浩の獲得にフロントが動かない以上、金本監督が最高トップの坂井オーナーに掛け合うしか手がなかったが、それはある意味、組織の形を逸脱することになるため遠慮したのだろう。 本来ならば、フロントが金本監督とのコミュニケーションを密に取り、現場の要望をくみとりながら、検討、対処していかねばならなかった。しかし今回の李大浩問題の顛末をみる限り、そのあたりのシステムがうまく機能していない。やることをやらず現場に「勝て」と厳命するのならば酷だ。 もし巨人が阪神と同じ立場に置かれていたならばアクションを起こしていただろう。 ただ、高額な投資が必要な外からの補強に頼るのではなく、ドラフトで獲得した生え抜きの選手を内側から育てることが急務だという考え方もある。昨季優勝した広島のチーム強化スタイルだ。34歳の李大浩と4年もの契約を結び、ゆくゆくは不良債権となってしまう危険性も多分にある。 だが深刻な問題は、そこまでの議論を現場と共に煮詰めた上で、李大浩の獲得を放棄していたのかどうか、というプロセスにあるのだ。坂井オーナーに決定権が集中してしまっている現在の阪神タイガースの問題点でもあるだが、李大浩の獲得失敗で、一塁空白の不安を解消できないまま2月1日のキャンプを迎えることになってしまった。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)