オルタナティブR&Bの次世代スター、オマー・アポロが語る最高傑作の裏側、SZAとの交流
SZAとのツアーを振り返る
―本誌の企画「Musicians on Musicians」では、リンジー・バッキンガムと対談しました。「音楽づくりに外の声を取り入れることは、決して悪いことではない。でも結局のところ、それが自分の推進力になるようではいけないんだ」という言葉に共感したようですね。 アポロ:誰かに「自分はこう思う」と言われると、僕は「自分はそうは思わない」と言って、反対する理由も伝えるんだ。テオは牡牛座だから僕のことをよくわかってくれているけど、意見が衝突することもたくさんある。でも、ひとりの人と長く時間を過ごすってことは、そういうことなんだ。僕はテオに全幅の信頼を寄せ、テオも僕にそうしてくれた。これが音楽づくりのあるべき姿なんじゃないかな。誰かの意見をあれこれ取り入れるようではいけないんだ。それでは自分のアートではなく、他人のアートになってしまうから。そうなると、奉仕としての行為になってしまうし、それはもはやアートではないと思う。アートとは、その人の魂と感情を映し出すものなんだ。 そういえば前に、会話をしていてイラッとしたことがあったんだ。そのときに「あなたが僕のことをどう思っていて、どんなイメージを持っているかなんてどうでもいい。大切なのは、朝起きて、みんなの前でパフォーマンスをしたり、新曲をリリースしたりすることにワクワクできることなんだ」と思った。いまでもそう思っているし、ここまで来るのに自分のすべてを出し切ってきたような気もする。僕は、そんな自分を誇りに思っている。大切なのは、そういうことなんだ。世間の声にムカつくことは多々あるし、だからこそ、あまり真剣に受け止めてはいけないんだと思う。 ―誰かに意見を求めるとしたら、どのような聞き方をしますか? アポロ:具体的なことを尋ねるよ。たとえば「いまから僕の曲を20曲演奏するから、気に入ったのを選んで」のように。その曲が好きな理由は言わなくていいから、どれが気に入ったのかだけを教えてほしい。思うに、創作プロセスというものはとても繊細で、どんなにささいなことでも、それに向き合おうとする自分のエネルギーに悪影響を与えかねない。だからこそ、他人の意見を取り入れすぎるのはよくないと思う。僕のとある友人なんて、アルバム制作中は何ひとつ聴かせてくれないし、何ひとつ見せてくれないんだ。ちなみに彼も、本作に参加しているよ。 ―昨年10月にリリースしたEP『Live For Me』について話してください。 アポロ:『Live For Me』は、まさにすべてが発見だった。僕が目的地をめざしながら作っていた音楽そのものだったんだ。同時に、タイムカプセルのようでもあった。EPのジャケットのためにドロン・ランバーグという画家が僕の自画像を描いてくれたんだけど、気に入って両方買っちゃった。いまは自宅の壁に飾ってあって、見るたびに「僕は、自分にこんなに最高なことをやってあげたんだ!」って思う。頭の中にあったアイデアが具現化されて、現実世界のものとして見るのはすごくやりがいのあることで、今後もそれを追い続けると思う。特にこのアルバムに関しては、そう思っているよ。 ―アポロさんがプロデュースしたホットソース「Disha Hot」とタコベルのコラボが実現しました。 アポロ:ホットソースのレシピは、もともと母親が考案したものなんだ。前からこのソースを復活させたいと思っていたんだけど、『Ivory』の制作に追われてなかなかできずにいたんだ。だから「とにかくいまは、音楽に集中しないと!」と温めていた。Disha Hotは、ミニサイズのパウチとして、アメリカ中のタコベルのショップで復活する。母親がメキシコからアメリカに移住してレストランを開いたことを考えると、すごく嬉しいよ。でも僕が生まれてからは、忙しすぎて店を閉めなければならなかった。Disha Hotは、母親がレストランで実際に使っていたホットソースなんだ。だから僕としては「ママごめん、僕のせいでレストランを閉めることになって。だから、お詫びにソースを復活させたよ」みたいな。 ―お母様は、ほかにどんな料理を作ってくれましたか? アポロ:トルタ・アオガーダ(ソースたっぷりのメキシコ風サンドイッチ)やチレ・レジェーノ(大きな唐辛子にひき肉を詰めて焼き、サルサをかけて食べるメキシコ料理)、アグアチレ(唐辛子を使った酸味のあるソースに魚介を漬け込んだメキシコ料理)とか、いろんなものを作ってくれた。これだけは言っておくけど、ママは本当に料理上手なんだ。思い出しただけで、よだれが出てきちゃった! ―初めてお会いしたのが2年前、「Evergreen」の大ヒットの前でしたね。一躍時の人として注目を浴びたことに、どのように対処していますか? アポロ:最初は不思議な気分だった。ネット上で言ったことが記事になったりもした。そのたびに「全然大したことじゃないのに、世間はこんなことまで覚えているんだ」と驚いたよ。「Evergreen」がヒットした頃には、アーティストとして維持するべきインフラのようなものはできていたから、「やばい、これからどうしよう?」みたいなことにはならなかった。ワールドツアーも8回こなしていたし、ライブのチケットも完売していた。でも、会場の規模は、「Evergreen」後は次元が違ったね。 ―ここLAでも、シュライン・オーディトリアムからザ・フォーラムへとステップアップされましたね。ザ・フォーラムでは、SZAのオープニングアクトを務めました。 アポロ:シュライン・オーディトリアムでライブをしたときは、「Evergreen」がヒットする前だった。5000人くらいのオーディエンスを前に、「すごい、大成功だ」って思ったよ。でもその後は、「この3倍の規模の会場でライブがしたい」と思うようになった。するとSZAのオープニングアクトが決まって、「マジでやばい」って思ったね。僕のことを知らない大勢の観客の前で、とにかく演奏に集中しなければいけなかった。怖かったよ。でもアリーナツアーを終えて、自分の音楽づくりの方向性も見えてくると、「アリーナで演奏できるような音楽が作りたい」という目標も見えてきた。 ―ツアー中、SZAとは仲良くなりましたか? アポロ:もちろん。ツアー中はとにかく忙しかったけど、SZAはめちゃくちゃいい人だった。2カ月前に一緒にご飯に行って、その後、ドレイクのライブでも会ったよ。僕はあの日、かなり酔っ払っていて(笑)。SZAは、いつも愛情を示してくれるんだ。 --- オマー・アポロ 『GOD SAID NO』 2024年6月28日(金)リリース FUJI ROCK FESTIVAL’24 2024年7月26日(金)27日(土)28日(日)新潟県 湯沢町 苗場スキー場 ※オマー・アポロは7月26日(金)出演 “FUJI ROCK SPECIAL” OMAR APOLLO(単独公演) 2024年7月25日(木)東京・KANDA SQUARE HALL
TOMAS MIER