『いちばんすきな花』田中麗奈の芯を感じさせる佇まい 美鳥が優しさの中に秘める強い意志
出身地も年齢も違う4人の男女の、友情とも恋愛とも違う、ちょっと不思議な関係を描いている木曜劇場『いちばんすきな花』(フジテレビ系)。全く接点がないと思われた4人には、実は共通の知人がいた。それが田中麗奈が演じる志木美鳥である。 【写真】『いちばんすきな花』松下洸平を慰める多部未華子と今田美桜 「志木さん」「みどちゃん」など人によって呼び方が違っていた美鳥は、共通して「なんか嫌われてる」というイメージがあるものの、その人が覚えているエピソードから窺える人柄は全く違ったものだ。たとえば、椿(松下洸平)が覚えている美鳥は、いつもどこかに傷を作っていて無愛想であるが、人が嫌いなわけではない。その証拠に、椿の家に来て、母の鈴子(美保純)から料理を習っていることもあった。そんな美鳥に椿は将棋を教えたのだった。 一方、夜々(今田美桜)にとっての美鳥は、にこにこしている優しいいとこのお姉ちゃん。夜々と美鳥を2人っきりにする時に「危ないことせんでよ」と言った沙夜子(斉藤由貴)の言葉には、心配とは別にトゲがあるが、幼い夜々にはよく分からなかっただろう。ただ、夜々と一緒にいた美鳥も将棋ができた。 それぞれにそれぞれの「美鳥像」があり、それが一致しないため、同一人物というにはおぼつかなく、似ている別人物だと思われていた美鳥。ゆくえ(多部未華子)が本人に確認して、4人がやっぱり同じ人について話していたことが判明した。 演じている田中は、高校在学中にサントリーのジュース「なっちゃん」のCMの初代キャラクターで人気を集めた。しばらくドラマや映画出演がない時期も続いたが、2006年公開の映画『暗いところで待ち合わせ』で孤独な盲目女性・ミチル役を演じたこと、さらに2007年には広島原爆をテーマとする映画『夕凪の街 桜の国』に強く希望して出演したことをきっかけに、社会性の強い作品に多数出演するようになる。 最近では、映画『福田村事件』(2023年)で井浦新と共に主演を務めている。この映画は1923年、関東大震災の混乱の中で実際に起こった、千葉県の福田村で香川県からの薬の行商団15名が地元の自警団に暴行され、9名が殺害された事件「福田村事件」を題材としている。田中が演じた静子は、夫とともに朝鮮から帰国し、夫の故郷である福田村で暮らし始めたが、もともと裕福な家庭で育ったため、いつも高級そうな服に身を包み、優雅な喋り方をして、田舎の農村では少し浮いた存在だった。だが、ある意味でその村の雰囲気に染まっていない分、周りに流されることなく、意見を主張できる存在に。行商団を朝鮮人と思いこみ、虐殺しようと暴走する村人たちに勇敢に異を唱えていく。穏やかな雰囲気がありつつも芯を感じさせる凛とした佇まいを持った田中だからこそできる、説得力のあるキャラクターだった。 この温かい優しさの中に強い意志を秘めている様子は、久しぶりに東京に戻ってきたという美鳥にも感じられる。美鳥は東京でなにかやりたいことがあるのだろうか。美鳥にまだ対面できていない紅葉(神尾楓珠)は美鳥に会うために椿がいる家までやってきたという経緯もあり、お互いに深い思い入れがありそうだ。紅葉の気持ちを考えれば、美鳥にすぐにでも会って、溜めに溜めた思いの丈を話してほしいと思うのだが、なかなかそうすんなりいかないのかもしれない。美鳥を含めた5人の今後の展開と関係性の変化が気になるところだ。
久保田ひかる