震災と原発事故から13年。喪失と絶望の中で生きる人々と、それを支える医療従事者たちのドキュメンタリー 映画『生きて、生きて、生きろ。』
映画『ちょっと北朝鮮まで行ってくるけん。』で第76回毎日映画コンクールドキュメンタリー部門にノミネートされた島田陽磨監督の最新作、映画『生きて、生きて、生きろ。』が公開される。 2011年3月11日に発生した、東日本大震災。震災と原発事故から13年。福島では、時間を経てから発症する遅発性PTSDなど、こころの病が多発していた。若者の自殺率や児童虐待も増加。メンタルクリニックの院長、蟻塚亮二医師は、連日多くの患者たちと向き合い、その声に耳を傾ける。連携するNPOこころのケアセンターの米倉一磨さんも、こころの不調を訴える利用者たちの自宅訪問を重ねるなど日々、奔走していた。 津波で夫が行方不明のままの女性、原発事故による避難生活中に息子を自死で失い自殺未遂を繰り返す男性、避難生活が長引く中、妻が認知症になった夫婦など、患者や利用者たちのおかれた状況には震災と原発事故の影響が色濃くにじむ。 かつて沖縄で沖縄戦の遅発性PTSDを診ていた蟻塚医師は、福島でも今後、同じケースが増えていくのではと考えていた。ある日、枕元に行方不明の夫が現れたと話す女性。「生きていていいんだ、という希望を持った時に人は泣ける」と話す蟻塚医師。米倉さんは、息子を失った男性にジンギスカンを一緒に焼くことを提案。やがてそれぞれの人々に小さな変化が訪れていく。 喪失と絶望の中で生きる人々とともに生きる医療従事者たちの姿を記録した本作に、ライターの武田砂鉄、NPO法人Dialogue for People 副代表/フォトジャーナリストの安田菜津紀、俳優・タレントのサヘル・ローズらがコメントを寄せた。 また、本作は「UDCast」方式による視覚障害者用音声ガイド、聴覚障害者用日本語字幕に対応している。
武田砂鉄、安田菜津紀、松元ヒロら 著名人コメント(全文)
▼武田砂鉄(ライター) 「何を頑張ればいいの?」 ふと漏れた言葉に、自分ならどうやって返すだろうと考える。答えが出てこない。たじろぐ問いをいくつも投げかけてくる。 ▼大島 新(ドキュメンタリー監督) 丹念な取材と真摯な考察によって、国家に翻弄された人たちのとてつもない苦しみが顕わになる。事実を知るにつけ、怒りと、何も役に立てない自分を恥じる気持ちが交差する。そして頭を垂れる。絶望的とも言える状況下で、患者にどこまでも寄り添う医療従事者たち。彼らの果てしない献身の末に行き着いたラストに、心底震えた。 ▼白川優子(国境なき医師団) 強く生きようとする人々の姿の向こう側に、心の傷から血を流し今なお耐え忍び泣いている福島を見ました。戦争も災害もひと通りの期間が過ぎたら世間から忘れ去られます。そして生き残った人々の「これからも生きていかなくてはならない」という辛く長い戦いが始まります。長いこと海外支援にばかり目を向けていた私ですが、自分の国、福島での現実にも改めて気づかされました。 ▼安彦良和(漫画家) 「寄り添う」という言葉がこの頃はよく使われているが、僕は使用をちょっとためらう。なんだか好意のほどこしを人に与えているようで、傲慢になっているのではないかと心が引っかかるからだ。だが、この記録には正真正銘の「寄り添い」がある。生きることに苦しんでいる人へのあたたかい気遣いがある。それが観ていてとてもまぶしい。 ▼安田菜津紀(NPO 法人 Dialogue for People 副代表/フォトジャーナリスト) 「戦争遂行のため」「核は安全だ」「もう被災地は復興した」という巨大な力の文脈から、振り落とされてきた無数の声。やがてそれは、「いつまで下を向いているんだ」という自己責任論に回収されていく。こうして「なかったこと」にされてきた痛みにそっと耳を傾ける、社会の「聴診器」のような映画だ。 ▼松元ヒロ(芸人) 被災後の福島で未だに絶望的な悲しみを抱えて生きる人たち。そんな人たちに寄り添って生きる精神科医と看護師。何故原発が福島に?基地が沖縄に?私の怒りとは裏腹に絶望を乗り越えて生きようとするこの人たち。ジーンと胸に響く音楽とエンドロールのあと、更に希望のワンシーンが。この映画のタイトルに思わず拍手! ▼中澤正夫(精神科医) 「生きて!生きて!生きて!」この映画を観たひとは、誰をもが思うだろう。震災による「こころの被害」は、叫ばれているにしては良くわかっていません。震災がどれだけ心を傷つけるか、その回復がどれだけ困難か‥‥ましてや「どのように癒されてゆくのか?」この映画はそこへ迫ったドキュメントです。ぜひこの映画を観て知ってほしい。 ▼サヘル・ローズ(俳優・タレント) 私達は知らなかったのか? 私達が知ろうとしなかったのか? 曖昧に流れた年月、責任逃れの、13年 振り回されているのは国家ではなく、人々 見えない希望が語りかける 無かった事にするのか? 傍観者は加害者になりえる 全世界が間違いなく、みるべき 生きて、生きて、『生きろ』 そう、『生きろ』とは 全人類へのメッセージなのかもしれない ▼林典子(写真家) 「誰かに生かされているのかな‥‥」。生と死の選択肢の狭間に揺れながらこう静かに自問する、息子を自死で失った男性。福島原発事故から 13 年、心の傷に向き合う人々との間で交わされる言葉から、「いのち」の在り方、「どう生きるか」という普遍的な問いを今の時代に生きる私たちに投げかけている。 ▼足立紳(「ブギウギ」脚本家・映画監督) 映っているのは今の辛く厳しい現実と過去の知らなかった出来事。アメリカは日本に、日本は福島や沖縄に、常に弱いところにしわ寄せを持っていく人間というものにどうにも絶望的な気持ちになるのに、でも、それでもやっぱり人間てすごいなあと思った。「よくここまで生きてきましたね」と蟻塚先生が言うように、「誰もが誰かに生かされ生かしている」と米倉さんが言うように、まさに『生きて、生きて、生きろ。』なのだと思う。それはこの映画に登場する人たちだけでなく、誰もがみんながそうなんだと思わせてくれる、そんな力が映っている映画だと思った。 ▼神田香織(講談師) 蟻塚先生の日常は悲しみ、苦しみに満ちているのに、先生の声を聞くとホッとするのはなぜか、よくわかる映画です。原発事故の PTSD にさいなまされる一人一人の境遇に、福島県人の一人として怒りを新たに。福島が原発立地候補となった経緯を 1953 年の米議会から解き明かす資料、映像、証言、そして沖縄。感情と理性が交錯する。微かな希望がみえてくるラストの何と感動的なことか。どんなに傷ついても信頼があれば再生することができる!世界中で観て欲しい、です。 映画『生きて、生きて、生きろ。』は、2024年5月25日(土)より全国順次公開。
otocoto編集部
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