『ONE DAY』誠司とミズキの友情をにじませるやり取り 異なる動きを見せた3つの物語
前回のエピソードで誠司/天樹勇太(二宮和也)の正体が、蜜谷(江口洋介)によって犯罪組織アネモネに送り込まれた潜入捜査官であることが判明した『ONE DAY~聖夜のから騒ぎ~』(フジテレビ系)。“記憶をなくした逃亡犯”に、それ以上の輪郭が与えられたことで一気に物語はクライマックスへ向けて加速していく。12月4日に放送された第9話は16時43分から17時48分。冬は日が落ちるのが早い。横浜の街にいよいよ本格的な“聖夜”が始まろうとしている。 【写真】立ち姿のミズキ(中川大志) バスのなかで蜜谷が銃を放ち、救急車で搬送された誠司。しかしそれは“撃たれたふり”であり、血のように見えたものはケチャップであった。バスから降りてきた時生(大沢たかお)に真相を教えられ、かつ天樹勇太からの伝言を受け取った桔梗(中谷美紀)は事件の報道を続けるために局へと戻ることに。一方、テレビのニュースを見て慌てて葵亭から飛び出してきた梅雨美(桜井ユキ)は、時生から天樹勇太が無事であると聞かされ安堵。2人は開店作業のために店へと戻る。それぞれがあるべき場所に戻るなか、誠司も付き添っていたカレン(松本若菜)に銃を向け、再び逃亡を図るのである。 バスジャックというワンシチュエーションのなかで、自然と「逃亡編」「レストラン編」「地方テレビ局編」の3つの物語が融合していた前回から一転、今回は三者がそれぞれ異なる動きを見せ、本来のかたちへと回帰する。20時からの大きな取引の中止を言い渡されて窮地に追い込まれたミズキ(中川大志)のもとへ帰ってきた誠司は、蜜谷との関係を疑われながらも、うまく彼を言いくるめるように状況を説明。この2人の終盤のやり取りと、同じタイミングで蜜谷が一ノ瀬(遠山俊也)に語る言葉で、なんとなくこの「逃亡編」の行き着く場所が見え始める。 それはまず、その直前のシーンで柚杏(中村アン)が神林(一條恭輔)から聞かされるミズキのアネモネ内での立ち位置からもわかる。ミズキが組織のトップに立ち続けているのは誠司がいたから。その言葉は、次のシーンで描かれるミズキと取引相手との電話で補強され、ミズキと誠治の関係性がより鮮明なものになっていく。その流れで蜜谷が一ノ瀬に語る、潜入捜査官であるはずの誠司が対象者であるミズキに情が移り、自身の任務に疑問を感じ始めていたということ。 誠司とミズキの友情をにじませるやり取りでは、これまでの「逃亡編」にはないような穏やかな時間が流れ(誠治にスマホを渡すところでのミズキの一言も妙に笑えてしまう)、ハンバーガーを一緒に食べながらの会話はまた格別である。これらを踏まえれば、誠治が警察の人間であるとわかってもなお、彼が警察とアネモネのどちらに肩入れしているのかという点が、物語の大きなポイントであると判断できる。現時点では後者につきそうなにおいが漂っており、すなわち誠司が記憶を失っている状態が好都合と考える蜜谷が、やはりあの前夜の事件の犯人という可能性も捨てきれない。しかも、すでに記憶を取り戻しているようなそぶりを見せる誠司。もしかしたら蜜谷から逃れるために、最初から記憶喪失のふりをしていただけなのではとも思えてしまう。 そんな大きな動きを見せる「逃亡編」のかたわらで、「レストラン編」においてはいよいよ近付く開店時間に向けてようやくメインディッシュのアイデアが固まり、「地方テレビ局編」では桔梗が生放送のドタバタに乗じてアネモネの密輸取引の現場を中継しようと画策する。それぞれの主人公が、それぞれの立ち位置でそれぞれの矜持に徹する覚悟が見えたところで、日付が変わるまではあと6時間。残りのエピソード数から考えれば、ここから一気に物語のギアが上がるのだろう。
久保田和馬