「思わず悲鳴を上げ」新田恵利 突然、夫が悪性リンパ腫に「弱っている夫との向き合い方に戸惑いも」
新田さん:幸いにも私は仕事を持っていて、夫もその後、仕事復帰できたからいいものの、これがもし専業主婦だったり、闘病生活が長引いたりすると、生活の基盤がぐらついてしまうんだと実感しました。 じつは、私のなかでは、がむしゃらに働く時期はもう終わったと思っていて、それまで苦手なお仕事はお断りすることもあったんです。でも、もしも家計の収入が絶たれた場合は、そんなことを言っていられません。歌の営業だろうが、なんだろうが、食べていくためにはなんでもやろうと、一時は覚悟していました。
── 病気は本人が一番つらいとはいえ、支える側の心にも大きな負担がかかります。新田さんは、どうやって自分の気持ちと向き合っていましたか? 新田さん:夫はもともと穏やかな性格なのですが、病気のストレスから気持ちの浮き沈みが激しくなったり、抗がん剤の副作用で体がつらいと、「もう嫌だ!」と愚痴をこぼすことも。つらい気持ちを溜め込むより、吐き出してもらったほうがラクになると思い、できるだけ話を聞くようにしていたのですが正直、こちらの気持ちも疲弊します。
でも弱っている夫に対して、私がネガティブな言葉を言うわけにはいきません。そこはグッと我慢。ただ、そうなると自分も精神的にだんだん追い込まれてくるんですよ。そんなときは友人に愚痴を聞いてもらったりして、気分転換していました。それでも「夫がいなくなったらどうしよう」とは、誰にも言えませんでした。言葉にすると、現実になりそうで怖かったのかもしれません。
■現実を受け入れられない私に対して夫がとった行動 ── 6年半にわたり、母親を在宅介護し、看取る経験をされました。病気の家族を支える側として、お母さまと配偶者のときでは、どんな違いがあったのでしょうか?
新田さん:親の介護と病気の主人を支えることは、まったく違っていて、パートナーの方が気づかいの面で難しかったですね。親の場合、年齢的にも、そう遠くない将来、死が訪れることはわかっていますし、心の準備期間もあります。テレビで死にまつわる場面が出てきても、とくに気まずい雰囲気になることはありませんでした。「なんか暗いねえ、チャンネル変える?」と余計な気をつかわずに言いあえる感じでしたが夫には、さすがにそれはできませんでしたね。ドラマなどで、がん患者がつらそうにしていたり、病気で人が亡くなるシーンになると「夫はどう感じているんだろう…」と胸が痛み、顔を見ることができない。どんな言葉をかけていいかわからず、「早くCMになってくれないかな」と、時間が通り過ぎるのをじっと待っていました。