人間と猿、いつの時代も文明によって破滅に進む『猿の惑星/キングダム』
『オッペンハイマー』に少し似ている部分も
人間の文明によってもたらされた武器ではあるが、その武器を持つことで、結局のところ文明を崩壊に導く、つまり何かを得ることで、何かを失うことの分岐点が、主人公ノアとプロキシマス・シーザー、そして人間のノヴァという3つの異なる視点を通して描かれているのだ。 探求による破滅への道という点では、クリストファー・ノーランの『オッペンハイマー』に少し似ている部分もあるかもしれない。 人間社会が崩壊したことで、戦争や分断といった人間がもたらす害悪が、一度リセットされてクリーンになった世界のはずなのに、潜在的に人間から受け継がれた負の遺産、つまり権力や支配欲といったものによって、かつての人間のようになっていく猿たち。 自分たちとは見た目や環境が少しだけ違う者たちを共存するのか、それとも支配するのか……。人類が何度も間違えてきた選択は、どんな状況になったとしてもまた間違ってしまうのだろうか……。 そう考えると私たち人間は、今生きていることが、この地球に生まれたことが初めてだと思っているだけで、実は一度か二度、根本から滅んでいてもおかしくない存在であると改めて思い知らされる。 そしてまた戦争や分断といった同じ歴史を繰り返し、破滅の道を歩んでいるのかもしれない……。実際に同じことがループされているとも解釈できる描写もあったりする。 またリブート版においては、以前から猿たちがヒンドゥー教のビンディやティラカ(ヒンドゥー教徒が額に描く模様や印)のようなメイクをしていることがあったのと、亡くなった猿を火葬する方法がヒンドゥー教の火葬に酷似していることから、いくらかインドの風習から影響を受けている可能性も高い。 シンプルに腐敗した文明のデザインやSFファンタジーとしてのおもしろさに満ちた作品ということも忘れてはならない。 ちなみに今作の監督を務めてウェス・ボールが映画版「ゼルダの伝説」の監督候補にあがっているのだが、今作の全体的なデザインを見る限りは、かなり期待できるだろう。 【ストーリー】 今から300年後の世界、猿たちは絶対的支配を目論み、巨大な帝国<キングダム>を築こうとしていた。一方、人類は退化し、まるで野生動物のような存在となっていた。そんな世界で生きる若き猿ノアは、ある人間の女性と出会う。 彼女は人間の中で“誰よりも賢い”とされ、猿たちから狙われていた。猿と人間の共存は不可能なのか。はたして、この世界で生き残るのは―。完全新作として描かれる新たな“猿の惑星”。ノアが出会った人間の女性に隠された秘密とは何なのか。進化は本当に“彼ら”を選んだのか。この惑星に隠された驚くべき真実とは―! 【クレジット】 映画『猿の惑星/キングダム』 原題:Kingdom of the Planet of the Apes 公開時期:2024年5月10日(金) 監督:ウェス・ボール 出演:オーウェン・ティーグ、フレイヤ・アーラン 配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン (C)2024 20th Century Studios. All Rights Reserved.
バフィー吉川