期限切れ肉問題で脚光? 中国報道機関の調査報道力
7月末、上海の食品会社「上海福喜食品」が期限切れ肉を使用していた問題は日本にも大きな衝撃を与えた。「えっ、また中国の食品?」と思い眉をひそめた人も多かったことだろう。日本マクドナルドが謝罪会見を行い、この問題は一応落着した。しかし、改めて日本人の食生活のかなりの部分が輸入食品に依存せざるを得ない状況であることを認識した人も多かったはずだ。中国の食の安全性についても、懸念が呼び起こされた格好となった。 一方で、今回の事件は過去に中国で起きた毒餃子事件とは違った中国の一面がクローズアップされた。「上海福喜食品」の不正を告発したのは中国メディア自身だったという点だ。最初に疑惑を報道した上海衛視(上海衛星テレビ)は元従業員の告発を受け、潜入取材を敢行。3ヵ月かけてあの「落とした肉を拾い上げる映像」を撮影し、報道に踏み切った。 実は、中国のメディアでは潜入取材はしばしば行われている手法だ。公式的に切り込めない問題に対しては、記者自身がその渦中に飛び込み、密かに取材して不正を暴いたケースは他にもいくつもある。今回の事件のように内部からのたれ込みも多く、市民の間で「お上に直訴してもダメならば、メディアに訴えて何とかこの事実を明るみに出そう」という意識も急速に広まっている。熾烈な競争にさらされるメディア側にとっても、こうした情報提供に耳を貸さない手はなく、まさに市民からの情報提供は「渡りに船」といったところだ。 だが、こうした報道合戦は、日本人から見れば少し奇妙に映るのではないだろうか? 中国のメディアといえば「党の舌」。つまり、党の政治宣伝(プロパガンダ)に使われている管制メディアだという認識を日本人は強く持っているからだ。一党独裁の共産党政権下では、市民はもちろん、メディアも自分の意見なんてとても言えない、と思っているだろう。 ある面ではそれは合っている。共産党を罵倒するようなことを公に書くことはもちろんできないし、ときには命取りになるからだ。だが、微博(ウェイボー:中国版ツイッター)の発達で、市民一人ひとりがメディアとなれる今、日本と同じく「たいがいのことはお目こぼしになる」のも事実。メディアの記者が微博を使って、個人的に情報を流す場合もある。政府が個人の情報発信まで100%管理することは不可能なので、共産党を脅かすようなひどい暴言でない限り、言論の自由もある程度は守られている、というか、黙認されているのだ。