「君のために」と押し付けられる要求 組織に絶対いる“厄介な人”の被害を受けないための精神科医による自己防衛術とは?
人は変えられないことを前提に対応を
やる方に同情の余地はないが、やられる方はたまらない。厄介な人々はある種のルサンチマン(遺恨)を抱えた人が多いのも確かなようで、本書では、そうした人たちにどのように対処すればいいのか対処方針を示す。 著者の考え方を端的に要約するなら、関わりを極力避けることである。この手の人物のターゲットにならないようにして、厄介な仕事を体よく押し付けられそうになった時のために断る練習をしたり、断る技術を身につけたりする必要があると説く。 さらに本書で参考になるのは「こうした人たちを変えるのは至難の業」という指摘である。 「根気強く言い聞かせれば改心してくれるだろう」「謙譲の美徳をもってすれば反省してくれるだろう」などと期待してはいけない。(中略) すぐに捨て去るべきだ。そのうえで、どうすれば実害が少なくできるかを考えるしかない。 そのうちわかってくれるといった甘い期待は禁物で、結局のところ変えられないというのが現実である。そうした人々の背景にあるのは自己保身や喪失不安で、およそ合理的ではなく、自分は悪くないという考え方である。著者は人を変えることはできないということを認識した上で、上手に避けることの重要性を記す。
集団活動にも生かせる自己防衛策
そのためには、著者が指摘するようにまず気づいて見極め、こちらが「ちょっと面倒くさい人間だ」と相手に思わせ、敬遠するように仕向ける。できるだけ避け、相手の関心を失わせるというやり方が自己防衛策になるのだろう。相手の心理や思惑を意地悪なまなざしを持って読むべしという著者の指摘は鋭い。 これは職場に限らず、人々が密接に接触する場、例えば寮や寄宿舎、クラブ活動や運動部、趣味の団体などでも言えることなのかもしれない。 本書に紹介される人間関係は問題の深さと解決の難しさが顕著な事例ばかりだが、程度の差こそあれ、こうしたことは誰にでも起こりうる。人間の心理を読み取って上手に対処し、自分に影響が及ばないように自己防衛することが大事であることを迫真のリアリティをもって教えてくれる力作である。
池田 瞬