「房州うちわ入門講座」受講の職人が出店 南房総(千葉県)
南房総市の房州うちわ職人、横坂哲也さん(54)が、同市内に店舗を兼ねた工房をオープンした。横坂さんは、房州うちわ振興協議会(太田美津江会長)が開く職人の入門講座の元受講者。講座出身者が自分の店を開くのは珍しく、協議会や先輩職人は期待を込めて見守っている。 同市千倉町白間津の国道410号沿い、海を間近に望む白間津花のパーキングの店舗スペースの一角に、横坂さんが開いた「うちわ工房 よこ」がある。広さは6畳ほど。透明な袋に入ったうちわがクリップでとめられて壁に整然と並ぶ。横坂さんは、傍らの床に敷いたござであぐらをかき、黙々とうちわづくりにあたる。 オープンは今年2月初め。周辺で色とりどりの花畑が見ごろを迎えた3月には、花見物の観光客が工房に立ち寄り、多い日で8本が売れたこともあった。花畑のシーズンが過ぎた今はひっそりと日が暮れていくことも多い。 横浜市の出身。北海道や茨城県で、長く競走馬の世話をする仕事に携わった。蹴られたり落馬したりとけがが多く、体力が必要なことから、50歳を人生の節目と見定めた。「体が動くうちに別の世界に挑戦しよう」と、旅行で「こんなところに住めたらいいな」と思っていた南房総市に2020年4月、移住した。 仕事を探していた21年、秋の入門講座を市に紹介された。子どものころから漆塗りや竹細工などに興味があり、「ぜひ、受講したい」と応募した。受講後も先輩職人の指導を受けるなど、腕を磨いた。 「『房州うちわ』のブランド力なら、店を出しても何とかなる」と23年夏から物件探しを始め、自宅から車で15分ほどの今の工房に出合った。 まだ、うちわだけで食べていくことは難しく、週4日アルバイトに出る。自分で工房を立ち上げてからは「伝統工芸品に値するものをつくらねばならない」との圧力を感じるようになった。経営を考えると1本のうちわを仕上げる労力と値段をつける兼ね合いも難しい。50代半ばにさしかかり、「1日に1本仕上げるのが限度」という製作本数を増やすのも体力的に容易ではない。だが、横坂さんは「これも修業」と受け止める。 工房に来た客には、必ずプラスチック製の市販品と自分のうちわを試してもらい、風のそよぎ具合や竹の感触を比べてもらう。伝統工芸品との違いを確かめてもらうためだ。「お客さんに江戸時代からの風を感じてほしい」と横坂さん。 入門講座で教えた「房州うちわ『輝』」の柴田輝和さん(69)は「とにかく熱心。集中力がすごくて習熟も早かった」と振り返り、「工房を開いたのは挑戦的なこと。応援している」。振興協議会の太田会長(72)も「頑張ってほしい」と話す。 「うちわ工房 よこ」の営業は午前9時から午後2時半(土、日曜は4時)まで。毎週水、木曜定休。 問い合わせは横坂さん(090―4715―6060)へ。