直接行為なき殺人、異例の立件 被害者の心理状態、動機解明がカギ 踏切死亡事件
東京都板橋区の踏切で塗装会社元社員の男性が電車にはねられ死亡した事件で、警視庁は踏切内に立ち入るよう仕向けたとして、殺人などの容疑で同社社員ら4人を逮捕した。 【写真】警視庁高島平署を出る佐々木学容疑者 死亡につながる直接的な行為がない中での殺人容疑の適用は異例。捜査は今後、暴力で服従させられていたとされる男性の心理状態の立証などがカギを握る。 捜査関係者によると、自らの直接的な行為ではなく、意思の働かない第三者を使った行為による犯罪は間接正犯と呼ばれる。たとえば善悪の判断がつかない子どもに指示して万引きをさせた場合などに成立する。 過去に間接正犯の殺人や殺人未遂の罪が認められた判例の多くは、被告が詳細に供述したり、被害者が当時の心情を説明したりした。今回は被害者が死亡し、本人から話を聴けないため、立証のハードルがより高いという。 同庁によると、死亡した高野修さん=当時(56)=は、同社社長の佐々木学容疑者(39)らから3年以上にわたり、日常的に暴行や虐待を受けていたとされる。踏切内に入るよう迫られた際、高野さんが逃げたり抵抗したりできないほど精神的に追い込まれていたかの立証が重要とみられる。 また、佐々木容疑者らの殺意を認定するには、動機の解明も必要だ。過去の判例では被害者に保険金が掛けられるなどしていたが、高野さんは保険金を掛けられておらず、同容疑者らの動機は今のところ明らかになっていない。 同庁は1年以上に及ぶ捜査で集めた客観証拠や4人の取り調べなどから殺人容疑の立証を目指すとみられる。