玉置玲央×三浦翔平×佐々木蔵之介×毎熊克哉×松下洸平 『光る君へ』“最期”の名演を振り返る
まひろと道長の人生に大きな影響を与えた直秀
直秀は風刺劇を披露する散楽の一員であり、貴族宅から盗んだ品々を庶民に分け与える義賊だった。直秀はふとしたことからまひろと道長と知り合い、身分の差に阻まれながらも思いを通わせる2人の間を取り持つ。直秀を演じた毎熊は、公式サイトのキャストインタビュー動画「君かたり」にて、「すごく単純なことで言うと、2人のことを好きなんだと思うんですよ」とコメントしていた。貴族を嫌悪する立場ながらも、まひろと道長に好意を覚え、2人の行く末を心配しながらも力になる毎熊のまなざしが印象に残っている。 第9回で描かれた彼の死には胸が張り裂けそうになった。けれど、彼の死が道長に「民のための政を成す」という目的を与え、物語終盤まで道長が政に奔走する意味を与えた。
明るく朗らかな性格で、まひろの全てを受け入れた宣孝
たびたび藤原為時(岸谷五朗)の邸宅にやってきてはなにかと為時一家を気にかけ、経済的にも精神的にも助けてきた宣孝は、越前にてまひろにプロポーズする。お互いが不実であることを受け止めたうえで結婚生活が始まったものの、夫婦喧嘩によって宣孝の足が遠のく時期もあった。とはいえ、宣孝はまひろにとって気兼ねなくものを言い合える相手であり、宣孝がまひろに伝えた言葉通り、まひろの全てを受け入れてくれる人物だった。 まひろが懐妊をきっかけに別れを切り出した時、宣孝はまひろの目をまっすぐに見て、「そなたの産む子は、誰の子でもわしの子だ」と伝える。「わしのお前への思いは、そのようなことで揺るぎはせぬ」「何が起きようとも、お前を失うよりは良い」という言葉と、演者である佐々木の包容力のある台詞の言い回しが胸にグッとくる。 佐々木の演技を通じて宣孝のあたたかさが強く伝わってきた分、第29回で唐突に訪れた死はショックだった。
複雑な境遇ながらも、まひろと通じる部分があった周明
最終回間近の回でも、深い悲しみを残す死が描かれた。越前で別れたのち、大宰府で再会を果たした周明の死だ。自身のことを宋人でも日本人でもないと話していた周明は、越前でまひろに心を開きながらもともに生きることは叶わなかった。大宰府での再会が、彼らの心の距離を再び近づけ、ともに生きる道筋に光が差すことを予感させた矢先に、周明は命を落とす。 周明を演じた松下は表情の機微を用いて、彼の複雑な心境とまひろを気遣う優しさを表していた。越前にいた頃は周明の陰のある部分が、大宰府では道長を思うまひろを見つめる周明のまなざしが、人のうわべではなく奥底を見つめるまひろに通ずる部分があったように思う。どこか似ている2人だからこそ、まひろが道長へ向ける愛とも、夫・宣孝へ向けていた親愛とも違う、関係性が築かれたのではないだろうか。 本記事では5人の登場人物をピックアップしたが、名演を残したのはこの5人に限らない。心に強く印象を残した登場人物は他にもたくさんいる。たとえば筋道を通す真面目な人物像でありながら、その言動におかしみも感じられる実資(秋山竜次)や、姉・まひろと正反対な性格ながらも常に明るく家族を照らしてきた分、急逝が惜しまれた惟規(高杉真宙)など。書き切れないのが悔やまれるほど、本作は登場人物一人ひとりに深い魅力が感じられる作品だった。来る12月29日には『光る君へ』総集編が放送される。ぜひ物語を振り返りながら、各々の印象的なキャラクターについて思いを馳せていただきたい。 (文=片山香帆)
片山香帆