【社説】基準地価 二極化する地方に対策を
全国的に地価の上昇が続いている。過去最高ペースの訪日客増加や市街地再開発、大型半導体工場の立地による急騰が目につく。実需に伴う上昇かを見極めたい。 国土交通省が発表した2024年7月1日時点の基準地価は住宅地、商業地、全用途の全国平均が3年連続で上昇し、上昇率はいずれも前年より拡大した。 住宅地は前年比0・9%、商業地は2・4%、全用途は1・4%で、バブル経済崩壊後の1992年以降で最も高い数字である。 地価上昇の波は九州にも及んでいる。各県の住宅地、商業地、全用途の平均変動率は上昇率が前年を上回るか、下落率が縮小した。県庁所在地の住宅地と商業地の平均上昇率は、横ばいだった大分市の住宅地と長崎市の商業地を除き前年を上回った。 顕著なのが福岡市である。住宅地の上昇率は9・5%、商業地は13・2%で、都道府県庁所在地と東京23区の中でトップだ。人口増加に加え、中心部の再開発や国内外からの活発な不動産投資が背景にある。投機的な動きには警戒が必要だ。 堅調な県庁所在地に対し、佐賀県唐津市、熊本県八代市、宮崎県都城市と延岡市、鹿児島県霧島市といった県都に次ぐ都市群では地価の下落が続く。同じ県内で地価の二極化が進んでいる。 土地は生活や経済活動の基盤である。実需に基づく緩やかな価格上昇が望ましいが、人口減少と高齢化、産業の衰退に直面する地域で需要を創出するのは簡単でない。 そこへ自然災害が襲い、大きな痛手を受けている。 今回の基準地価で、全国の住宅地と商業地の下落率上位10地点は石川県と富山県が占めた。いずれも元日の能登半島地震の被災地で、10%を超す大幅な下落地点も少なくない。域外に避難した被災者が戻らなければ、復興と地価の回復は難しい。 2018年の西日本豪雨で大規模な浸水被害に遭った岡山県倉敷市真備町は、被災前の水準を大きく下回る。 20年の熊本豪雨で被災した熊本県人吉市の中心部も下落したままだ。 一部不通が続くJR肥薩線は、八代-人吉間を鉄道で復旧する方針が決まったものの運転再開の時期は未定で、人吉-吉松(鹿児島県湧水町)間は復旧方針すら決まっていない。交通インフラの復旧の遅れも地価下落の一因ではないか。 昨年7月の記録的豪雨で土砂崩れに見舞われた福岡県久留米市田主丸町では、4地点全てで下がった。昨年はいずれも横ばいだったため、災害の影響とみられる。 地方ではなお、上昇地点よりも下落地点が多い。福岡、広島、仙台、札幌の4市を除く地方圏は半数超が下落だった。地域経済の活性化に知恵を絞り、地価の二極化に歯止めをかけたい。
西日本新聞