「田舎に行けば空き家が選び放題と思っていたのに…」 移住したい人の受け皿、増えているはずが実際は物件不足の理由
「移住したい都道府県」ランキング1位の長野県、空き家や空き地情報は不足傾向
「空き家が『足りない』」―。長野県内の市町村の空き家バンクの関係者から、そんな声を聞く。空き家数は増えているはずなのに、なぜ…。「田舎暮らしの本」(宝島社)の2024年版「移住したい都道府県」ランキングで、信州は18年連続1位。22年度に県外から県内へ移住した人は3334人に上る。ところが受け皿となる空き家バンクで「空き家・空き地情報は不足傾向にある」(県信州暮らし推進課)という。簡単には処分に踏み切れない所有者側の家屋への「思い入れ」が壁になっている側面があるようだ。 【グラフ】長野県内の空き家総数と居住目的のない「その他空き家」の数
空き家バンクで探したけれど
「田舎に行けば、空き家は選び放題だと思っていたのですが…」。4年前、首都圏から夫の新規就農に伴い、一家で上田市に移住した平林友里佳さん(30代)は話す。 元々マンション暮らしだったため「3人の子がのびのびと過ごせる一軒家に住みたい」と考え、まずは空き家バンクで住まいを探した。ところが、賃貸用は数が少なく、結局「(通常の不動産市場で)中古の一軒家を購入した」。見知らぬ土地でいきなり家を買うのは「ハードルが高かった」と振り返る。
需要に供給が追いつかず
移住・定住希望者らが、真っ先にチェックする空き家バンク。市町村により条件は異なるが、通常の不動産市場で流通しづらい山あいや低価格の物件も多く、バンクによっては片付けや改修費の補助制度もあるのが魅力だ。 上田市は15年度から空き家バンクを運営。人気は高く、物件登録数が23年度までで累計327件だったのに対し、利用希望者登録件数は約3・5倍の1151件に上る。物件中でも不足しがちなのが賃貸用で、全体に占める比率は13%(43件)にとどまる。 東筑摩郡朝日村企画財政課の児玉祥平さんも、空き家バンクは「需要に供給が追い付いていない」と話す。同村のバンクは登録を賃貸用に限っており、23年度の新規登録数は3件。「物件を出せばすぐ埋まる状況」という。
「先祖に申し訳ない…」所有者側の思い入れが背景に
背景として考えられる一つが所有者側の「思い入れ」だ。伊那市が20年、家主にアンケートを取ったところ「売ってしまうのも寂しい気がして…」「先祖に申し訳ない」などの回答が目立ち、家屋を手放すことに抵抗を感じる家主側の心理がうかがえた。 飯田市も「空き家等対策計画」(22~25年度)の中で「状態の良い空き家が多数あっても、中古で流通しているのはごく一部」となっている現状を指摘。性能や耐用年数が分かりづらく「市場が未成熟である」と分析する。 空き家バンクに詳しい熊本県立大環境共生学部准教授の佐藤哲(さとし)さん(46)は「空き家化する前からの“予防”が大事」と訴える。放置すれば傷みが進み、手遅れにもなりかねないため「使える空き家は使えるうちに利活用に回すよう、所有者らにアプローチしていく必要がある」とする。