若き「コンマス」理想の演奏追求 警視庁音楽隊・長谷部玲奈巡査長(34) 警視庁150年
ワーッ-。コンサートホールに観客の拍手と歓声が響き渡り、アンコール曲のあとも熱気は冷めやらない。舞台袖に引き上げた指揮者に続き、コンサートマスター(コンマス)を務めた、警視庁音楽隊クラリネット奏者の長谷部玲奈巡査長(34)が、隊員らの前に踏み出して一礼し、晴れやかな笑顔を見せた。 3月上旬、台東区上野公園の東京文化会館で開かれた「警視庁グランドコンサート2024」。音楽隊が年間の活動の集大成と位置付けるこの公演を成功裏に終わらせ、長谷部さんは「警視庁の存在を音楽とともに刻み、活動への理解を深めてくださればうれしい」と話し、胸をなでおろした。 ♬ ♬ ♬ コンマスは、「第2の指揮者」とも言われ、演奏中は指揮者の意図を奏者らに伝えるほか、練習中も、各パートに対する問題提起や意見の集約など、活動を通したリーダー役を担う。 幼少からピアノを習い、中学で「オーケストラ部」に入ってからは、クラリネット一筋でやってきた。平成27年に警視庁に入庁し、交番勤務などを経て29年に音楽隊に入隊した。 コンマスに就任したのは31年春。まだ20代での抜擢だった。警視庁音楽隊は前身の組織が戦時中にいったん解散。戦後の再結成から約80年の歴史を持つ。音楽隊にコンマスの役職が設置されたのが昭和55年で、長谷部さんは3代目だ。「重責を担うことになり、正直、大きなプレッシャーがあった」と振り返る。 ♬ ♬ ♬ ここでのコンマスは、独特の〝気遣い〟も必要だ。隊のほぼ全員が警察官であることから、演奏者としてのスキルや経歴など音楽隊員としての序列とは別に、階級による序列もあるためだ。 階級と音楽の世界での立場が逆転し、上司に指示を出すといったことも起こり得るといい、人間関係の微妙なかじ取りをする能力が求められる。ただ、長谷部さんは「表現したい音楽のため、言うべきことは言わなければならないこともある」ときっぱり。逆境をものともしない胆力を持つ。 隊員らの信頼は厚い。ある先輩隊員は「普段から良い関係を築く努力をして、明るく笑顔で隊を導いてくれる」と評価している。