『燕は戻ってこない』稲垣吾郎が穏やかに選択を強いる “選ばされてしまった”リキと悠子
基(稲垣吾郎)の穏やかで圧のある口調が恐ろしい
悠子の親友であるりりこ(中村優子)が言うように、そんな基がバレエダンサーの妻を捨ててまで悠子を選んだのは心から彼女を愛しているからだろう。けれど、その悠子に選択肢は与えない。いや、一応、最終的な判断を委ねてはいる。だが、自分たちの子供を持つことが叶わず、千味子から離婚を迫られている今、悠子が選ぶ道は一つしかないのも同然。「決めて悠子。キャンセルする?」と問いかける基の穏やかだけど、圧のある口調が恐ろしかった。 また、悠子にはお金を払って知らない女性にリスクの伴う妊娠・出産を代理してもらうことに対して抵抗感があった。しかし、代理母をやりたいと申し出たのは向こうであり、自分たちはそこに対価を払うのだから“Win-Win”だという基。リキも、自分から誘っておいてあっさり梯子を外した同僚のテル(伊藤万理華)に文句を言うが、「リキが決めたんでしょ?」と反論される。だが、リキも悠子も“選ばされてしまった”としか、どうしても思えない。そんな2人が初めて顔を合わせた時、リキはハンカチを握りしめる悠子が、かつて裾を握りしめていた佳子と重なる。その瞬間、リキは「この人も“間に合えなかった”人なんだ」と思った。 結婚すれば、自由になれると言っていた佳子。たしかに結婚すれば、他人から変に干渉されずに済む。だけど、結婚したらしたで、今度は悠子のように子供のことで干渉されるようになる。結婚しないのも、出産しないのも本人の自由。だけど、その自由を選んだ、選ばざるを得なかったことによる対価を私たちは払わされる。29歳のリキは結婚して子供を産めば、まだ“間に合う”のだろうか。でも“間に合う”とは、果たして何に? どこに?
苫とり子