全国男子駅伝での走り、大震災の古里に勇気 渡辺利典さん(宮城県、RUNDY)大橋真弥さん(宮城県、石巻市役所)
天皇杯全国都道府県対抗男子駅伝競走大会(全国男子駅伝、ひろしま男子駅伝=日本陸連主催、中国新聞社、NHK共催)が19日、広島市中区の平和記念公園前を発着するコースで開かれる。30回目を迎える大会。古里や多くの人の期待を背負い、安芸路を彩ってきたランナーやスタッフの思いに迫る。 全国男子駅伝(ひろしま男子駅伝)2025 チーム紹介 安芸路を駆ける姿は古里を勇気づけてきた。2011年3月の東日本大震災から10カ月後の第17回(12年)。47位の最下位でスタートした宮城は、たすきをつなぐたびに順位を上げた。東北高3年だった5区渡辺は「インターハイは個人の夢を追いかけた。男子駅伝は古里への恩返し。走りで笑顔、元気を与えたかった」。26位という結果よりも、全員で走り切った誇らしさに浸った。 渡辺は仙台市内の自宅で被災。雪を溶かして生活用水をつくり、ろうそくの火で夜を過ごした。部活動も約1カ月間停止。ランニングどころではなかった。 春夏秋を越え、県チーム代表に選ばれ、広島入り。大会前日、補員だった同学年の大橋とホテルの部屋で語り合った。「俺たち大変だったな」。大橋は津波や火災で壊滅的被害を受けた石巻市出身。がれきが山積みの街を走り、いちずに全国舞台を目指した思いを聞いた。奮い立ち、8人を抜く区間10位の走りにつなげた。 一方、あと一歩で全国デビューを逃した大橋は「悔しさしかなかった」。次なる目標を「箱根」に定め、東農大へ進学。だが、青学大で2度の総合優勝に貢献した渡辺とは違い、出場の夢はかなわなかった。卒業後、古里の石巻市役所に就職。「まだやり切った感がなかった」と地元のランニングクラブに入り、朝晩、走り続けた。 社会人2年目、記録会で1万メートルの自己記録を更新。すると宮城県チーム関係者から「おめでとう」と一報が入り、第23回(18年)の代表を手にした。大会では補員から急きょアンカーを務め「沿道から途切れない声援を受け、あっという間の13キロだった」。その姿をテレビ越しに応援した渡辺は「大橋が最後の最後まで諦めず、夢をかなえて本当にうれしかった」。被災地の諦めない姿、そのものだった。 渡辺は実業団チームを退社した昨春、仙台市でランニングクラブを立ち上げた。大橋はスポーツ振興課に所属し、25年3月に石巻市である復興マラソンのコース選定など大会運営に奔走中だ。 原爆ドームと原爆資料館で、復興の歴史に触れた体験を渡辺は今でも忘れていない。「宮城も同じ復興がテーマ。自分たちは走ることで復興の歴史をつないでいく」。安芸路を走ることで見いだした希望で、古里に力を与えていく。 ◇ わたなべ・としのり 仙台市出身。東北高、青学大を経てGMOインターネットグループに加入。現在は仙台市でランニングクラブ「RUNDY」を主宰する。 おおはし・しんや 宮城県石巻市出身。石巻高、東農大を経て石巻市役所に就職。石巻ランニングクラブに所属し、公務員ランナーとして国内外のレースに出場する。
中国新聞社