横浜FCの38歳松井大輔がボランチで新境地開く
センターバックを本職とする31歳の田代真一との、異色のダブルボランチが誕生したのは7月20日の栃木SC戦だった。以来、松井の守備、田代の攻撃とお互いの不得手な部分を補い合う2人が先発としてそろい踏みしたリーグ戦で、横浜FCは5勝2分けと不敗を継続している。 「マサ(田代)はマサで僕を助けてくれているし、本当にいいコンビだと思っています」 こう語る松井は、ポーランド2部のオードラ・オポーレから加入した昨シーズンは出場9試合、267分のプレー時間に終わった。新たなポジションを得た今シーズンは19試合、1196分と大きく数字を伸ばしている。しかも新たな発見をピッチ上の松井に見出した、と下平監督が目を細める。 「すごく体を張ってファイトするんですね。彼がそういうプレーをすることでチームが活気づき、士気も上がるところも非常に買っています」 2004年9月に移籍したフランスのル・マンを皮切りに、松井はヨーロッパの4か国、延べ9つのチームでプレーしている。上手いプレーだけでは海外では生き残れない。時にはファウルも厭わない激しさや泥臭さが時空を超えて、ボランチを主戦場にしたベテランに脈打っている。 ヴァンフォーレ戦の前半8分にルーキーのMF中山克広(専修大学卒)が叩き込んだ先制点も、松井が見舞ったスライディングタックルがきっかけだった。自陣に攻め込まれ、攻撃参加してきたヴァンフォーレのボランチ、小椋祥平にボールが入った直後だった。
トラップの刹那を狙って松井が真横からスライディングを一閃。こぼれ球をすかさず田代がレアンドロ・ドミンゲスへつなぎ、左サイドでパスを受けた現役大学生のMF松尾佑介(仙台大学4年)がカウンターを発動。逆サイドを駆け上がってきた中山が、完璧なフィニッシュを演じた。 「彼らは本当に頼もしいですね。今日は助けられたので、今度何かおごろうと思っています」 松井が犯したファウルで与えた直接フリーキックを、J1得点王経験者のFWピーター・ウタカにヘディングで叩き込まれたのが前半16分。後半開始直後に再び中山の一発で勝ち越すも、自身が与えたPKを同11分に再びウタカに決められる。最後は松尾のゴールで決着をつける白熱の展開に、左右のサイドアタッカーを担う若手コンビに感謝しながら松井は前を見すえた。 「いろいろなポジションでプレーして、本当にキーパーだけをやっていないような感じですけど、だからこそ自分のサッカーの視点というものは広がったと思います」 残り11試合となったJ2の上位争いは、未曾有の大混戦が続いている。下平監督の就任とともに右肩上がりに転じた横浜FCは、それまでの中位からJ1自動昇格圏となる2位にまで浮上してきた。 「ポイントはこれまで積み上げてきた自分たちのサッカーを、これからも貫いていくこと。最後は上を見るのではなくて、一戦一戦、自分たちの足元を見つめながら戦っていければ」 レイソルが首位を快走する一方で、2位の横浜FC以下にはモンテディオ、大宮アルディージャ、京都サンガ、水戸ホーリーホックの5チームが勝ち点4ポイント差にひしめき合っている。予断をゆるさない状況で突入する秋の陣へ、2001シーズンにサンガで、2015シーズンにはジュビロ磐田でJ1昇格に貢献した松井の濃密な経験値もまた、横浜FCの大きな武器になってくるはずだ。 (文責・藤江直人/スポーツライター)