「薄っぺらい関係やめよう」 令和の世に敢えてゲキ…“時代おくれ”の指導に込める信念
仲間と関係深めるノック「チームメートのために動く」
野球は突出した能力のある選手が1人いても、試合に勝つのは難しい。剛速球を投げる投手がいても、捕手が後逸すれば振り逃げで出塁を許し、野手の失策で失点する。だからこそ、矢嶋監督は「チームメートを励ましたり、チームのために体を張ったりして主体的に動くところがチームスポーツの良さだと思っています。仲間とのつながりを感じていれば、雑なプレーはできません」と強調する。 つながりを深める練習の象徴となるのがノックだ。投手が打ち取った打球を野手がアウトにする。安打を許した時は中継プレーなどで傷口を最小限に食い止める。送球ミスを捕球でカバーする。あらゆる場面で仲間との関わりが求められる。守備は攻撃や走塁以上にチームワークが問われるため、ノックでは矢嶋監督の言葉にも熱がこもる。 「仲間に謝ったり、悔しがったりする前にできることがある。準備しないと」 「仲間が関わることで楽な方法を選ぶな。自分1人で野球をやっているわけではないんだから」 週末のノックは朝から午後3時頃まで続く時もある。選手たちはアウトカウントや点差など、試合の状況を想定して必要なプレーを判断する。特に大切にするのが「時間の感覚」。打球の方向や速度、さらにミスが出た時に相手チームの走者がどこまで進んでいるのかイメージしながら動く。 チーム全体で声をかけ、イメージや考えを共有しなければ、ベストな答えにたどり着けない。矢嶋監督はノックバットを手に「一番起きてほしくない、最悪の事態を想定して動くように」「事が起きてから動くのではなく、事が起きると思って動かないと後手後手になる」とアドバイスする。
指導の原点は現役時代…社会人軟式の強豪から得た教訓
技術以上に野球に取り組む姿勢を重視するチームづくりの原点は、矢嶋監督の現役時代にある。強豪の大阪信用金庫と国体で対戦した時、野球に向き合う気持ちやチームワークの差を痛感したという。 「相手は大阪桐蔭出身の選手が所属するような個の能力に長けたチームだったにもかかわらず、決して足の速くない4番打者が常に全力疾走していました。チャンスで凡退したり、守備でミスをしたりした選手には、ベンチを含めてチームメートから『ここからだ!』と鼓舞する声が自然と出ていました。強いチームに、こんな戦い方をされたら勝てるはずがないと感じました」 当時の静岡ガスは県内では頭抜けた存在だったが、全国では苦戦していた。矢嶋監督はチーム改革に乗り出した。「仲間に思いを伝えられる選手は、センスがあるからではありません。環境をつくれば、誰でもできます」。この時の信念を小学生の指導でも継続している。技術習得の前提には、野球への向き合い方があると考えている。 三島ゴールデンイーグルスには、際立って技術の高い選手や体の大きな選手が集まってくるわけではない。むしろ、体の線が細い選手が多い。それでも、静岡県内で安定した成績を残し、昨年は“小学生の甲子園”と呼ばれる「マクドナルド・トーナメント」に出場した。 矢嶋監督は「みんなでアウトを取るのに、汗をかかない選手がいて良いわけがないんです。思いや覚悟をつなぐのは面倒な部分があるかもしれませんが、選手のつながりがあるからこそ近年は実力以上の結果が出ています」と力を込める。野球に取り組む土台となる姿勢や思いがなければ、その上にある技術は揺らいでしまう。
間淳 / Jun Aida