新薬が手に入らない「ドラッグ・ラグ」解消は、極言すれば役人たちの仕事ではない
後発医薬品の欠品が続いている。咳止めや解熱剤の不足が顕在化して1年以上が経つ。クリニックで診察していると、毎日のように調剤薬局から「カロナールの500 mg錠は欠品中なので、200 mg錠2つで代用していいですか」のような問い合わせの電話がかかってくる。 私は平成5(1993)年に医学部を卒業し、内科医となった。バブル経済が崩壊していたとはいえ、日本は一流国家だった。医師が必要と判断した薬は、ほぼ処方することができた。先輩医師からは「患者さんの命が最優先だ。医師は金銭のことなど考える必要はない」と指導された。将来、風邪薬が足りなくなるなど想像もしていなかった。 なぜ、こんなことになったのか。私は「日本人が12歳」だからだと思う。自らが世界の常識とかけ離れたことをやっていても、気づかない。そのために、日本の社会システムが不安定になっても、一向に改めようとしない。 外資系製薬企業に勤務する知人は、「日本の後発医薬品はオーバースペックだ」という。「海外では後発医薬品は、サプリメントのように瓶に入れてまとめて売られるのが普通で、一錠ずつ個別に包装し、表裏に薬の名前を印刷しているなどあり得ない」。 そうだ。こんなことに海外の企業は付き合わない。このオーバースペックが、外資系企業の参入障壁として国内企業を守ってきた。
スギ花粉症治療薬「シダキュア」に集まる期待
常識的に考えれば、後発医薬品は安売り競争をすべきだ。薄利多売なので、企業は合併を繰り返し巨大化せざるをえない。こうやって安定供給を維持する。なぜ、我が国の後発品メーカーは中小企業でやっていけるのか。それは不適切な規制で守られているからだ。このような規制は利権へつながり、社会を停滞させる。我々は、世界情勢を踏まえ、もっと自分の頭で考えるべきだ。ところが、「安定供給」と呪文のように唱えるだけで、冷静に考えることができない。これは子どもの所業だ。 このような事例は枚挙に暇がない。最近、このことを痛感したのは、スギ花粉症治療薬「シダキュア」の扱いだ。 シダキュアとは、鳥居薬品が販売しているアレルゲン免疫療法薬だ。現状ではスギ花粉症を治す唯一の治療法である。スギ花粉が飛散していない6~12月に治療を開始し、毎日1錠服用を3~5年間継続する。服用した患者の約2割が治癒し、約3割が大きく改善する。 治療への反応には個人差があるが、私の外来でも「シダキュアをやってから、花粉症が随分と軽くなりました」という患者が大勢いる。 販売元の鳥居薬品の業績は好調だ。2023年12月期の売上は546億円で、前年比11.7%増だった。牽引したのはシダキュアで、前年比18.2%増の114億円を売り上げている。 シダキュアに対する期待は高い。政府は「花粉症に関する関係閣僚会議」を立ち上げ、昨年5月には鳥居薬品に、年間の供給量を今後5年間で現状の4倍である100万人分に増やすように要請した。鳥居薬品も「真摯に対応させていただく」と表明している。 シダキュアはスギ花粉エキス原末製剤で、原料は森林組合から調達する。製薬企業が扱い慣れている低分子化合物と異なり、製造から製品管理まで手間がかかる。鳥居薬品は専門部署を設置し、政府の要請に懸命に応えている。