〈大阪都構想・審判へ〉大阪都は東京都になれるか? 大杉覚 首都大院教授
大阪都の財政は?
さて、大阪都構想ではどうか。もともと大阪府・市ともに自前の税収等だけでは歳入をまかなえない、地方交付税制度上の交付団体である。都(府)区制度に移行したからといって、打ち出の小槌のように税収が湧いてでるわけではない。もちろん、都たるもの交付団体ではその風格にそぐわないといわれようが、そうあってはならないわけではない。肝心なのは、東京であれば都区24の主体の対立構図が「コップのなかの争い」に収まるものが、大阪の場合ではどうなるかである。 先述の東京では未決着とされる事務配分でいえば、児童相談所の特別区移管などは大阪都構想に織り込みずみであり、対立の芽をあらかじめ摘んでいる点で優位性がある。他方で、大阪都構想が実現した場合、大阪の特別区には、平均すると東京よりも人口規模が大きく、より多くの事務権限が付与される予定だ。このような自律度の高い自治体として特別区が5つも誕生したとき、それらの政治力はきわめて強力なものとなる。争いが生じても、コップにひびが入らなくて済むだろうか。「大阪都が東京都になれるか」の決定的な試金石だ。
都区財政調整制度を導入するということは、あえて膨大な調整コストをかけることを意味する。なぜならば、もともと府市の間であればそれぞれの役所内の予算編成手続きで済むはずのものを、わざわざ都と特別区という複数の独立した主体に分割して、それらの間での交渉ごとに置き換えるしくみだからだ。役所内の予算編成よりも透明性を高める効果があり、民主的かもしれないが、それだけに利害関係もまたくっきりと浮かび上がり、そこに新たな政治の構図が生じる余地がある。例えば、都市開発に向けた集中投資をどの地域に行うべきか、迷惑施設をどこに建設すべきかなど、一自治体内でも容易に決着のつかない事柄を複数主体間で決めなければならない局面もあろう。加えて東京のように財源は豊かではない。乏しい財源をめぐって、争奪戦が過熱する可能性もある。こうしたメリット・デメリットをどのように勘案して判断するかがまさに問われるのだ。 さて、本格的な人口減少時代を迎え、都市財源となる税収構造そのものが大きく変化していく。とすると、実はここで述べた論点は、限りある財源をどのように調達し分配していくかという一般的課題になる。なにも都区制度固有の、あるいは大都市限定の課題としてだけではなく、大阪都構想をめぐる論議を他山の石として、自ら暮らす地域でのこれからの都市政治や財政のあり方を考えることも必要だろう。大阪市民のみならず、自らの地域のコップのデザインをどうするかは市民の手に委ねられているのだ。 --------------- 大杉覚(おおすぎ さとる) 首都大学東京大学院社会科学研究科教授。昭和39年生。東京大学大学院総合文化研究科より博士(学術)取得。成城大学法学部専任講師、東京都立大学法学部助教授を経て、平成17年から現職。その間、平成13~14年ジョージタウン大学客員研究員。政策研究大学院大学客員教授。専門分野は行政学・都市行政論。著書に『地方自治』(平成16年、共著、日本放送協会学園)、『自治体組織と人事制度の改革』(平成12年、編著、東京法令出版)、『実践まちづくり読本』(平成20年、共著、公職研)ほか。総務省人材育成等専門家派遣事業アドバイザー、総務省地方公共団体における人事評価制度に関する研究会委員、国・自治体各種審議会等委員を歴任。