京都市民が痛切に感じる「観光過剰」、AIで軽減できる？ 産官学連携で研究へ
人工知能（AI）や情報処理技術を活用し、オーバーツーリズム（観光過剰）の問題を少しでも減らしたい-。AI研究のパイオニアとして知られる教授らが今夏、オーバーツーリズムに悩む観光地の情報を分析し、対策を検討する研究会を京都で立ち上げた。深刻な社会問題となっている現状を京都市内などで調査し、産官学で連携しながら解決へのアプローチを探っていくという。 【写真】自動で圧縮、リアルタイムで量を把握 「観光情報学会オーバーツーリズム研究会」で、京都橘大学工学部の松原仁教授が旗振り役となって7月に発足させた。松原教授は、棋士の思考を機械学習させるコンピューター将棋の研究や、生成AIを活用して手塚治虫の新作漫画を生み出すプロジェクトなどに携わり、AI研究を黎明期からけん引してきた研究者として知られる。 同研究会は、観光を巡る情報を分析し新たな知見を地域活性化に生かす「観光情報学会」の下部組織という位置付けで、松原教授が主査、京都産業大学情報理工学部の棟方渚准教授が幹事を務める。定期的に研究会合を開く方針だ。 第1回の会合は9月10日、京都橘大学（京都市山科区）で開かれ、企業や大学などの関係者約50人が参加した。観光庁の濱本健司参事官（外客受入担当）が基調講演し、全国のオーバーツーリズムの現状や政府の進める対策について話した。 雄大な景観で人気の北海道美瑛町では、観光バスの往来や観光客の農地への立ち入りで農作業に支障が出ており、神奈川県鎌倉市では人気アニメのモデルになった踏切に観光客が殺到している事例を説明。「京都市でも交通混雑やマナー問題は今も大きな課題。コロナ禍で消失した観光需要が急激に戻ってきたことで、現地の人が観光過剰をより痛切に感じる事態になっている」と語った。 AIを活用した対策の一例も紹介。「スマートごみ箱」は一定量のごみがたまると内部センサーが反応して自動で圧縮し、容量の数倍のごみを収納できる。リアルタイムでごみの現在量を送信し、見回りのコストを省く長所もあり、京都市内や大阪市内など各地で導入が進んでいるという。 同研究会は今後、研究者や自治体関係者の参加を募り、観光客分散など情報分析を通じた対策を検討するとしている。 ■因果関係分析、根本に迫る 京都橘大学・松原仁教授 研究会の中心となる京都橘大学の松原仁教授は、複雑な事象から因果関係を統計的に分析する手法がオーバーツーリズムの研究に有効な可能性があると説明する。 ◇ 実際に研究してみないとわからないこともあるが、データを基に因果関係を推定していく「因果推論」が活用できそうだ。たくさんの複雑な事象をひもとき、原因に迫っていく分析手法だ。オーバーツーリズムの問題は多くの要因が複雑に絡み合っているケースが多く、その点を整理できれば元々の原因にたどり着けるかもしれない。 現在のオーバーツーリズム対策は、表に出てきた事象を解決することに力を注いでいる。医療でいう対症療法のような形だ。（AIや情報処理技術の活用で）根本原因がわかれば、新たな軽減策が見えてくる。オーバーツーリズムの根治につながる研究を最終的な目標にしたい。（談）
