事務局もなければ代表もいない「オムツ外し学会」呼びかけ人が訴える「社会の介護化」
■ケアの多様化
「オムツ外し学会」というちょっと変わった名前の団体がある。事務局もなければ、代表もいない。全国各地の介護関係者が不定期に実行委員会スタイルで、現場の実践報告大会を開いてきた。福岡市で開かれた大会で、学会の呼びかけ人である「生活とリハビリ研究所」(東京)代表の三好春樹さんが講演した。排泄(はいせつ)ケアから社会批評に及んだ講演の要旨を紹介する。 【写真】三好さんの講演や実践報告に熱心に聞き入る介護関係者ら 「昔の介護は、高齢者が上を向いて寝た状態が前提でした」。4月21日、福岡市中央区の市民福祉プラザ(ふくふくプラザ)。「オムツ外し学会in九州」で三好さんが語り始めた。 1950年、広島県生まれの三好さんは、特別養護老人ホームの生活指導員となった後、理学療法士の資格を取得。85年に独立して「生活とリハビリ研究所」(東京)を開設、88年に「オムツ外し学会」を始めた。「施設ではトイレに歩いて行ける人以外は、安静介護で全員オムツ」の時代だったという。 オムツへの過度な依存。機械浴の乱用。一律に決められた食事時間。介助をするには便利だが、高齢者の脚が床に届かず離床が難しい高さのベッド…。ケアのあらゆる面に及んでいた「介護する側の都合」は、寝たきりを増やす要因とも指摘された。 三好さんは、介護者ではなく高齢者をケアの主体と捉え、介護の在り方を根底から問い直し始めた。 「みんなと一緒にゆっくり食べたい」「のんびりお湯につかりたい」「便意や尿意を覚えた時にトイレで排泄したい」。当たり前の欲求にできるだけ応えて介助する。食べる、起きる、歩く、ふんばるといった日常行動をリハビリと捉え直す。三好さんが著書や講座で訴え続けたことだ。 「それぞれの老化と障害の程度に見合った介護の方法論を現場で作り上げる。ケアの多様化に現場が取り組むようになったんです」。西日本新聞文化面に「VIVA!耄碌(もうろく)」を連載している「宅老所よりあい」(福岡市)の村瀬孝生代表もその1人。「三好さんの本に出合わなければ、介護の仕事を続けていない」と語る。 四半世紀が過ぎ、オムツをできるだけ使わないことやベッドからの離床の推奨は、広く介護現場に共有されるようになった。 三好さんによれば、排泄ケアは「介護の基本」という。「下剤、浣(かん)腸、摘便をやる前に生理学に合った排泄ケアがある。難しくはない。重力と腹圧を利用できる座位、したいときに便座に座れるタイミング。この二つを守った排泄ケアは、心身ともに落ち着いた生活を送るために不可欠」と語った。