市場の「トランプトレード」過熱で大統領選後の米国経済に波乱も
トランプ氏当選でインフレ加速のリスクが
足元の米国株の堅調な値動きも、「トランプ氏の返り咲きを先取りしている」との受け止め方が少なくない。同氏が公約に掲げる法人税減税実施などへの期待が膨らむ。大統領選の勝利だけでなく、上下両院の議席も共和党が過半数を占める「トリプルレッド」のシナリオまで織り込み始めた感がある。 最近の「トランプトレード」活発化の一因になったとされるのが、暗号資産で取引を行う賭けサイト「ポリマーケット」のトランプ氏の勝利確率上昇だ。10月上旬から徐々にハリス氏との差が拡大。10月28日時点ではトランプ氏の勝利確率が66パーセントに達している。 ニューヨークダウや、機関投資家の運用のベンチマークであるS&P500種株価指数は軌を一にして値上がり、史上最高値を更新した。 「ポリマーケット」でのトランプ氏の勝利確率の上昇をめぐっては、恣意的な操作の可能性を指摘する報道もある。 「ウォールストリートジャーナル」は、10月18日、「トランプ氏の勝利確率の上昇は『ポリマーケット』の4つの取引口座経由で手にした仮想通貨による賭けによってもたらされた蜃気楼かもしれない」と伝えた。 同紙は「ブロックチェーンの分析会社の調査によれば、計3000万ドルをトランプ氏勝利に賭けている」などとしており、「“激戦州でトランプ氏が勝利する”との賭けなどにも資金をつぎ込んでいる」という。にもかかわらず、賭けサイトにウォール街が一喜一憂するのは、「世論調査に対する信頼のなさ」(日系証券)と無縁ではない。 一方、気になるのが米国の長期金利の推移だ。10年物国債の利回りはジリ高歩調となり、10月28日時点で4.3パーセント近い水準に達した。 長期金利が上昇しているのは、トランプ氏が大統領になった場合、ハリス氏よりもインフレを加速させるリスクが高いとみられるからだ。 トランプ氏は追加関税を実施し、中国からの輸入品には60パーセント超の税率を課す考えを示している。税率が引き上げられれば、製品を輸入した米国企業は価格に転嫁。結果として、物価は押し上げられてしまう。同氏の不法移民に対する強硬姿勢も人手不足を助長し、賃金インフレにつながりかねない。 選挙前の「トランプトレード」がさらに過熱するようだと、大統領選の結果を受けて好材料出尽くしとなり、米国経済の中長期的なインフレやスタグフレーション(景気停滞下での物価上昇)への警戒から波乱の展開になる。そうしたシナリオも頭の片隅に置いておく必要がありそうだ。
松崎泰弘