「歯を残すことこそが善で、抜歯は悪」と言い切れない治療 抜歯の選択どうあるべきか
[県歯科医師会コラム・歯の長寿学](344) 歯が生える薬-。そんな夢のような治療薬の開発が進められており、現在は実用化に向けた研究の最中だそうです。ですが残念ながら、広く一般的に臨床に応用されるのは、まだまだ未来の話になるでしょう。 一度抜歯すると元の状態に戻すことはできませんので、抜歯は最終手段とし、まず歯を残すすべを探るというのが基本的な治療の考え方となります。そのため、多少予後に不安があったとしても治療して歯を残すケースはたくさんあります。 この「多少予後に不安があったとしても」というのを、どこまで許容するのかが鍵になります。治療方針を決定する上で重要なのは、「次の一手」を頭に入れておくことです。 抜歯を避けて歯を残す道を選んだ結果、炎症の進行を招き、その周囲に大きな骨吸収を生じてしまったら、次にどんな治療をするにしても条件は悪くなってしまいます。つまり、次の治療の質が大きく低下するのです。ですから歯を残す場合は、再治療時の条件を最低限確保できるだろうという前提が必要になります。 さらに、この選択基準は患者さんの年齢によっても大きく異なります。若年者の場合は、チャレンジングなケースでもトライする価値は大きいでしょう。逆に高齢者の場合は、ボーダーラインの場合でも積極的に抜歯した方が他の歯の延命につながるケースが多いように感じています。 長く利用できそうな歯は当然残すべきですが、「歯を残すことこそが善で、抜歯は悪」と簡単に言い切れるものではありません。全く逆のパターンも十分にあり得ますので、1本の歯ばかりにとらわれるのではなく、口の中の状態を総合的に診断した上で治療方針を決定すべきだと思います。この話を頭の片隅に置いていただき、抜歯か否かの選択を迫られた際にほんの少しでも思い出し、一助としていただけましたら幸いです。 (下地恒太郎・オキナワ・デンタルオフィス=南風原町)