NHK大河「光る君へ」はかなきヒール・道兼も退場…後継は道長?伊周?揺れる一条天皇 第19回みどころ
女優の吉高由里子が主演するNHK大河ドラマ「光る君へ」(日曜・後8時)の第19回「放たれた矢」が12日に放送される。 【写真】一世を風靡したアイドルが「光る君へ」で別人のような姿 大石静氏が脚本を手がけるオリジナル作品。大河ドラマではきわめて珍しい平安時代の貴族社会を舞台に、1000年の時を超えるベストセラー「源氏物語」の作者・紫式部/まひろの生涯に迫る。5日に放送された第18回「岐路」では、道長(柄本佑)の兄である道隆(井浦新)、道兼(玉置玲央)と立て続けに関白が倒れ、後継争いは道長と伊周(三浦翔平)の一騎打ちに。一条天皇(塩野瑛久)は悩んだ末に道長に内覧の宣旨を出し、公卿のトップとなる姿が描かれた。 「光る君へ」前半のキーマンであった道兼がとうとう退場に。第1回からまひろの母を刺し殺す衝撃展開で鮮烈なヒール役として登場した道兼は、兼家(段田安則)からの密命を背負い、花山天皇(本郷奏多)を欺いて出家させるなど汚れ仕事に手を染めまくるも、跡目に選ばれず絶望。自暴自棄なところを道長にすくい上げられ、新たな気持ちで政に向き合おうとしている矢先の無念な運命だった。 「七日関白」は史実なのでアレコレ言ってもしょうがないが、強烈なコンプレックスとか、選ばれなかった苦しみとかを超えて、本能として「人は弱いもの」と知っている道兼が政の中心に立っていたらどうだっただろうと夢想する。それだけ、玉置玲央というすぐれた役者が演じた道兼像が魅力的だったということだ。 内裏でぶっ倒れる場面での顔から突っ込んでいく躊躇(ちゅうちょ)のなさや、病床での感情がごちゃまぜになった笑い泣きの演技。最期のシーンは本来、兄弟の対面はかなわぬはずだったが、柄本の提案により道長が御簾(みす)を強行突破し兄を抱きかかえ背中をさするシーンになったという。ここまでの歩みが伝わってくる名場面だった。 まひろも「あのお方の罪も無念もすべて天に昇って消えますように」と鎮魂の琵琶の音を響かせた。なお今週8日は史実上の道兼の没日であり、直近のこの回を退場回にしたのも制作サイドのはからいかと思案した。道兼は浄土に行けただろうか。ここまでさまざまな感情を与えてくれた道兼という存在に感謝したい。 次の関白をめぐり、一条天皇は愛する中宮・定子(高畑充希)と母である女院・詮子(吉田羊)の間での板挟みに苦しむ。定子の兄・伊周は根っからの悪人ではないように描かれているように思えるが、どうにもお気立てに難がおありなので…。伊周がもっと情緒が安定した人間だったら一条天皇だって即断即決できただろうに、と同情するしかない。伊周の「皇子を産め」「素腹の中宮」の暴言にギュッと唇をかむ定子さま。清少納言(ファーストサマーウイカ)が静かに怒りを燃やす表情の演技も胸を締め付けられた。 伊周ではなく道長を推す詮子の涙ながらの説諭は「大鏡」にも記されているが、本当にこうだったのでは?と 思えるほど実に迫力があった。「母を捨てて后(きさき)を取るのですか」。第18回は詮子も伊周も「どけ」というせりふで人払いをしているが、そのせりふに人間の器みたいなものがにじみ出て興味深い。 まひろは筑前帰りの宣孝(佐々木蔵之介)から宋の官僚登用試験「科挙」のことを聞いたり、弟の惟規(高杉真宙)から白居易の新楽府(しんがふ)の話に強く心ひかれたりする。まひろと道長による「政によって民を救う」という共通の志が離れてもなお通じ合っていることがわかる。 月の輝く夜、2人はかつて愛を確かめ合った六条の廃院で偶然再会するが、言葉を交わすこと無く素通りする。「昔の己に会いに来たのね。でも今語る言葉はなにもない」というまひろの心の声に食らってしまった。もちろんこのドラマは物語なのだが、より一層物語性が増す大石静氏の脚本のすさまじさにただただひれ伏すばかりである。 そんな中で繰り広げられる第19回「放たれた矢」では、右大臣に任命され公卿の頂点に立った道長と、先を越された伊周の軋轢(あつれき)がさらに高まっていく。一方、まひろは、清少納言のはからいで内裏の登華殿を訪ね、定子と初対面することに。一条天皇も現れ緊張のひとときが描かれる。そしてある夜、女に裏切られたと落ち込む伊周は、強引な弟・隆家(竜星涼)とともに女の家に再び足を運ぶが、これが大事件へと発展していく。 サブタイトルにも明記されているし、すでに予告にも出ているので先に伝えておくと、比喩ではなく物理的にこの回で矢は放たれる。お久しぶりのアノ人も満を持しての登場で、平安の世はさらに混沌(こんとん)とする。まひろの次の選択への道筋もなんとなくつきそうな感じもするし、そういった意味では転換点になる回。弦(つる)を放たれた矢はもう引き返せない。(NHK担当・宮路美穂)
報知新聞社